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俺は死ぬことすら「奇跡」に邪魔をされた。俺にとって「奇跡」とは一体何なんだろうか。何をするにしても「奇跡」がつきまとう。努力も想いも願いもなにもかも、ただ「奇跡」というものに上塗りされる。俺がやって来たことは、俺が戦ってきたものは、俺の行いは一体何の意味を持てるのだというのだろうか。俺は医者の話を聞かされてからすぐにもう一度眠りについた。
次に目が覚めた時は傍に母親しかいなかった。近くの椅子に座って、スマホに目を向けていた。俺が起きたのに気付くと、何も言わず、俺のベットの方に近づいた。母は俺の手をゆっくり握って、「良かった、良かった。」と泣きながら言った。窓から見える外の景色は寒そうなのに、母の手は暖かくて、綺麗に白で塗られた四方の壁は固く無機質でいるのに、母のながす涙は流動的でその形を変えながら母の頬を伝っていった。
そんな母を見て、俺は生きていてよかった、ふとそう感じたんだ。俺は「奇跡」に守られたんだろうか。俺は「奇跡」に救われたのだろうか。「奇跡」は俺の味方をしたのだろうか。恨めしくて憎らしくてどうしようもない「奇跡」は俺に幸福をもたらしたのだろうか。そう思うと、俺はもう「奇跡」を否定できなかった。
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