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kiseki
俺は「奇跡」ってのが大の嫌いだ。
「奇跡」ってやつは昔っから俺の転機に訪れて、俺の人生を狂わせる。神様からの恩恵だなんてもてはやされてはいるが、俺からしてみれば悪魔のイタズラでしかない。俺にとって「奇跡」は起こすものじゃなく、起こされるものだった。
中学三年のころ、俺はバスケ部のレギュラーだった。近くの中学からは頭一つ抜けていて全国も何度か出場経験のある強豪校だった。練習は当然厳しくて、部員は小学校からバスケをやっているようなやつがゴロゴロいた。そんな中でレギュラーをとるというのは生半可な努力で出来ることじゃなく、俺がレギュラーになったのも二年の後半からだった。俺はレギュラーになったことに誇りを持って、レギュラーになるまで以上に練習に励んだ。そしてむかえた引退をする大会で悲劇を迎えた。県大会決勝、全国に行くためにはここで勝たなければならない。対戦校は普段から交流のある高校の内の一つだった。お互いに手の内がバレているものの、実力は俺たちの方が一枚上手で5試合すれば4勝1敗の戦績だった。
決勝の舞台でもこちらが優勢に点を稼いでいた。第二クオーター終了で9点差がついていた。後半スタート直後、突如試合の流れが相手に傾き相手高校の猛攻が続いた。第三クオーターが終わるころには4点差まで追いつかれ、点を取り合う接戦となっていた。最後の攻防に近づくとお互い逆転、逆転と交互にリードし続ける展開になってしまった。俺たちの最後の攻撃、エースに回ったバスケットボールはその指から飛び、綺麗な放物線を描いてゴールに入る。試合終了まであと10秒。相手の攻撃を止め切れば勝てる。ラスト5秒。ボールは俺の目の前の選手にわたる。ラスト2秒。ドリブルフェイントからのジャンプシュート。俺は一瞬だけ遅れてシュートブロックに跳ぶ。投げられたボールが俺の指先に触れる。当たった指先からジーンと痛みがくる。ブレたボールの軌道はふらふらとゴールまでの道のりをそれたように見えた。それが何の因果かズレるボールを吸い込むようにゴールの枠の中へと流れていく。
ビーー、ブザーの音と共にゴールの網を通り抜けたボールが床に落ちる。ドン、ドン、ドン。音は次第に小さくなり、審判によって相手チームに得点が入る。一瞬、時が止まったかのように感じる刹那。試合会場が大歓声に包まれ、相手高校は歓喜にあふれる。最終スコアは70対71。1点差の敗北だった。
後にその高校を取材したバスケットボール週刊誌が出版された。その高校は過去全国上位という歴史をもっていながら、実に10年ぶりの全国大会出場で特集されていた。その雑誌で全国大会出場を決めた県大会決勝について語られていた。最後の一投、シュートがブロックの手に触れたのが分かったのだそう。それでも入ったのはまさに「奇跡」だったと書かれていた。
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