kiseki

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 19歳の冬ごろ、俺は最後の試験に挑んでいた。俺は初めての大学受験で第一志望を落ちて一浪することを決めた。親にいくらか金を出してもらって、自分でもバイトを掛け持ちで働いた。もちろん、勉強も怠らずに一年を過ごした。親には今年で落ちたら大学は諦めて働くように言われていた。  半年は自宅で足りない学力を埋めるために机にかじりついたが、夏期講習くらいから予備校に高い学費を払って通った。予備校では志望校対策や模擬テストを受けることができた。そうしているうちによく見かける人がいつも同じメンバーになっていることに気が付いた。志望校が同じ人は大抵、予備校内での行動が同じになるせいで知らぬ間に知り合いになる。後がない俺はそこの連中と仲良くなるつもりはなかった。そこには一郎や二浪もいたが、現役生もいた。  ある時、予備校で仲良くなったのか前の席でよそよそしい話し声が聞こえた。片方は俺と同じ一浪、もう片方は現役生だった。模試の判定がどうだとかあの講義を受けたかだとうか話していた。聞いた感じ、一浪の方は志望校を下げてここにいるらしい。判定もよくて鼻高々に勉強法なんかを話している。現役生の方は三年になるまで勉強をサボってばっかりだったけど、どうしても行きたい大学があって勉強を頑張っているのだそう。その一浪の話を熱心に聞き入っていた。その顔がすごく真剣だったからどことなく憶えていて、見かけるたびにそのことを思い出した。  試験当日もその子を見かけた。  合格発表は掲示もあったが、俺はネットで確認することにした。掲示板の前で最後の審判を受け入れる覚悟が無かったのだ。ネットで結果を確認すると予備校に合否の連絡をしなければいけないことを思い出して、予備校まで自転車を走らせた。予備校はそんな人がたくさんいて、俺はいろいろと教えてくれた先生に報告をした。不合格だった。俺の挑戦は失敗で、俺の人生は終わりを迎えた。それでも、その先生はそんな俺に言葉をかけて励ましてくれた。そのついでに俺が報告したタイミングでの合格者は一人しかいないと教えてくれた。あの現役生の子だった。その子のことを先生は予備校に入ってきた時から指導していて落ちこぼれからの逆転劇を初めて見た、と先生は少し興奮気味に言った。先生は俺の気を紛らわせたくて言ったのだろうけど逆効果でしかなかった。「奇跡」ってホントにあるんだなぁ、と先生は冗談を言うように笑いながら言っていた。
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