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「津久田さま、お式まではふた月ですよね」
「ええ」
雅臣は仁科を見て、体型はそう変わってないなと思った。細く引き締まった体つき。
自分と一緒で、週に一度のジョギングくらいは、続けていそうだ。
「ひと月前までには、具体的なオーダーをお願いいたします」
「わかりました」
まだ招待状を渡していないが、雅臣は仁科にも出席の打診をした。
十一月は店が繁忙期なので、出席が難しい――すぐにそう返された。ケーキを頼んで招待しないわけにはいかないので、招待状は一応、彼の分も刷った。
「あとデザインについては、こちらをご参照ください」
仁科はそう言うと、厚いアルバムを雅臣に渡した。
雅臣は渡されたアルバムを、ぱらぱらとめくった。どのページにもウェディングケーキの写真が、作成例として載っている。
四角い一段のケーキが多いが、ハート型や段重ねのウェディングケーキもある。旬の果物がふんだんに飾られたケーキもあれば、クリームの薔薇が飾られたケーキも。
どれがいいのかわからなく、つい写真下の金額にばかり目がいく。
雅臣は悩んでいる途中でふと、隣側を見た。「お誕生日のプレート、これでよろしいですか?」という声が、雅臣の気を引いた。
「ええ。せな、ケーキ楽しみだね」
「いま食べたい!」
小さな女の子とその母親が「せなちゃん3さいのおたんじょうびおめでとう」と書かれたホワイトチョコレートを前にして、喜びあっている。そして彼女らの前には。
「お誕生日おめでとうございます」
……心からほほえむ女性店員。幼顔で印象がやわらかい。
若い異性が接客しているという点も含め、隣の光景がとても羨ましい。気が散って、ますますオーダーケーキへの考えがまとまらない。若葉はなにか言っていたか。
「お悩みですか」
そんな雅臣に見かねたのか、仁科が声をかけた。
「あー……。僕のほうでは、あまりこだわりがないせいか。迷ってしまって」
「ゲストの人数はどれくらいになりそうですか」
「六十人……前後かな」
雅臣は頭を抱えた。二か月前だが招待状を配り終えていないので、正しい人数はわからない。
仁科がアルバムのページをめくった。
「予算的には、この辺りもお薦めです」
仁科が見せたのは、飾り気が少ないケーキだった。長方形の一段のケーキで、フリルのように絞られた生クリームだけが、表面を飾っている。ケーキの側面には、オリーブの葉とかすみ草が添えられていた。
「こういうシンプルなデザインは、果物などの材料費がかからない分、費用が抑えられます」
仁科が写真の生花に、細い指をやる。
「少し緑を添えれば、洒落た印象になりますし」
「なるほど」
雅臣は頷いたが、緑と白を基調とした生花を見て――顔をしかめた。
ここにもボリュームが欲しいと言われたら。
「……やっぱり僕ひとりでは、決めかねます」
「そうですか」仁科はアルバムを引いた。
雅臣は申し訳なさから、視線を泳がせた。隣では会計を済ませた親子連れが、ケーキボックスを受け取ろうとしている。
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