2. オーダーメイドの頼み方

7/18

42人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
 洋菓子店をあとにした雅臣は、再び電車に乗った。結婚式の招待状を渡しに向かった。  招待状はできるだけ手渡しで。そのマナーどおりにしようと、大学時代の友人ふたりと、茶飲みがてら集まった。 「……で、そのパティシエになった後輩には、招待状を渡しそびれたわけか」 「ああ」 「そのタイミングで招待状を渡されたら、欠席に丸つけて返すかも」 「続いていると思っていた。悪気はなかった」  正午すぎ。黒を基調としたイタリアンレストラン店内にて、雅臣は友人たちと話していた。注文したばかりなので、まだテーブルには、レモン水しか口をつけるものがない。  若葉の親友である女性は、招待状の封筒を渡されるなり、出欠のハガキを取り出した。大きな丸をつけて雅臣に返す。 「はい。出席」 「早えよ。ありがとうございます」  雅臣は両手を揃えて受け取った。 「俺も出席で」  雅臣の友人も、とんとん拍子でハガキを返した。 「結婚式、なに着ていこうかなぁ」  友人女性は上機嫌で、レモン水を飲んでいる。 「ゲストハウスでの式ってはじめて。ここ、どんな会場なの?」 「古い邸宅を、結婚式場に変えたところだよ」  ゲストハウスでの式にこだわったのは、若葉だった。  招待状、花、ドレス、音楽、ケーキ――豪華じゃなくてもいいから、できるだけ一から選んだもので揃えたい。それが彼女の願う結婚式。  七月に仮予約したホテルがあったが、そこは外部からの持ち込み禁止のものが多かった。確認を怠った。  ホテルでは若葉の望む式は挙げられない。それに気づかされたのは七月末。ウェディングケーキを頼む La maison(ラメゾン) en bonbons(アンボンボン) へ、電話したときだった。  その日は店長の男性に応対してもらった。彼は『仮予約したホテルでは衛生上の理由で、生もののウェディングケーキは持ち込めない』と、ためらいがちに教えてくれた。そして二次会なら会場の選択が広がることと、過去に披露宴で持ち込んだ実績がある会場を、三つ、雅臣に教えた。  隣で話を聞いていた若葉は『そういうことなら』と、すぐに教えられた会場の中から、もっとも趣があるゲストハウスへと、式場を変更した。  ……結果、持ち込み代などもかかり、会場代は想定の枠を超えた。  雅臣はこのとき、ひとこと若葉に言った。もう少し考えても良かっただろうと。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加