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洋菓子店をあとにした雅臣は、再び電車に乗った。結婚式の招待状を渡しに向かった。
招待状はできるだけ手渡しで。そのマナーどおりにしようと、大学時代の友人ふたりと、茶飲みがてら集まった。
「……で、そのパティシエになった後輩には、招待状を渡しそびれたわけか」
「ああ」
「そのタイミングで招待状を渡されたら、欠席に丸つけて返すかも」
「続いていると思っていた。悪気はなかった」
正午すぎ。黒を基調としたイタリアンレストラン店内にて、雅臣は友人たちと話していた。注文したばかりなので、まだテーブルには、レモン水しか口をつけるものがない。
若葉の親友である女性は、招待状の封筒を渡されるなり、出欠のハガキを取り出した。大きな丸をつけて雅臣に返す。
「はい。出席」
「早えよ。ありがとうございます」
雅臣は両手を揃えて受け取った。
「俺も出席で」
雅臣の友人も、とんとん拍子でハガキを返した。
「結婚式、なに着ていこうかなぁ」
友人女性は上機嫌で、レモン水を飲んでいる。
「ゲストハウスでの式ってはじめて。ここ、どんな会場なの?」
「古い邸宅を、結婚式場に変えたところだよ」
ゲストハウスでの式にこだわったのは、若葉だった。
招待状、花、ドレス、音楽、ケーキ――豪華じゃなくてもいいから、できるだけ一から選んだもので揃えたい。それが彼女の願う結婚式。
七月に仮予約したホテルがあったが、そこは外部からの持ち込み禁止のものが多かった。確認を怠った。
ホテルでは若葉の望む式は挙げられない。それに気づかされたのは七月末。ウェディングケーキを頼む La maison en bonbons へ、電話したときだった。
その日は店長の男性に応対してもらった。彼は『仮予約したホテルでは衛生上の理由で、生もののウェディングケーキは持ち込めない』と、ためらいがちに教えてくれた。そして二次会なら会場の選択が広がることと、過去に披露宴で持ち込んだ実績がある会場を、三つ、雅臣に教えた。
隣で話を聞いていた若葉は『そういうことなら』と、すぐに教えられた会場の中から、もっとも趣があるゲストハウスへと、式場を変更した。
……結果、持ち込み代などもかかり、会場代は想定の枠を超えた。
雅臣はこのとき、ひとこと若葉に言った。もう少し考えても良かっただろうと。
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