2. オーダーメイドの頼み方

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「……なんで、急にそんなこと聞くの?」 「質問に質問で返すなよ」 「前に言ったじゃない。ふたりだよ。雅臣で、三人目」 「お前の友達、四人って言っていたけど」  若葉は間を空けた。 「そのひと、彼氏じゃない」 「じゃあどういう男」 「……言いたくない」  若葉が雅臣の前に座る。彼女が持っている招待状が、視界に入る。 「もうやめよう。結婚前に喧嘩なんて」  雅臣は奥歯を噛んだ。 「……勝手に話を終わらせるなよ。式のことも、若葉が決めてばかりじゃないか」 「雅臣、怒りすぎだよ」 「隠さないで、早くどういう男だったか言えよ」 「………」 「その彼氏じゃなかった奴」  息切れの音。相手の動揺を、耳だけで察した。 「……八つ上。私は本気で、向こうは、そうじゃなかった」  とぎれとぎれの声は、震えていた。 「二回しか、ふたりで会っていない。もう、いいでしょ?」 「……二回会って、彼氏じゃないって、なに」 「……わかってよ。……ジムで知り合ったんだけれど」  若葉はずっと、言葉を濁している。 「二回で連絡がこなくなった。付き合っていない」  雅臣は強い苛立ちを抑えられなかった。 「八歳上か。そりゃ二回きりでも、楽しい時間だったんだろうな」  自虐的に笑った。  年齢差への劣等感は少なかったが、それは彼女が年下好きだと思っていたから。 「お前なら俺じゃなくて、もっといい男を捕まえられるよ。今からでも考え直せば?」 「……いい加減にしてよ」  若葉が床を叩く。 「五年も付き合ったのに、どうして信じてくれないの」 「五年も付き合ったのに、知らない奴がいたからだよ!」  雅臣は怒鳴ったときに、やっと若葉を見た。  若葉は泣くのを堪えていた。唇が震え、目に涙を溜めている。  雅臣と目が合うと、その表情は苦笑いに変わった。 「なーんか今日……。話しても、無駄っぽいね」  若葉はゆっくりと立ちあがった。雅臣のボディバッグと招待状は、床に散ったままだ。  彼女はリビングから出ていった。そして玄関から合鍵を持ってくると、無言でボディバッグに詰めた。 「ごめんね雅臣。また連絡するから」  結婚式の招待状も、ボディバッグに入れる。雅臣に渡す。 「帰って」  最後のひとことは、ひどく冷静な物言いだった。
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