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土曜日に若葉と仲違いをした雅臣は、週明けには、冷静さを取り戻していた。
わだかまりは残っているが、このままではいけない。そう思って若葉に連絡を取った。
喧嘩から二日後の月曜日に、メッセージを送った。
『言いすぎた。今日、会って話せないか?』
電話で話す勇気はなく、メッセージを送る。
『まだ会いたくない。もう少し時間をください』
彼女からの返信は、すぐに来た。
喧嘩から三日後の火曜日。午後五時三十七分。
雅臣は若葉から届いた昨日のメッセージを、会社の休憩室で見た。頭を抱える。
スーツポケットに入れている合鍵を、思わず握りしめた。
「どうした津久田。元気ないな」雅臣の同僚が、声をかけた。
彼は自販機の前で、珈琲が注がれるのを待っている。
「マリッジブルーか?」
「そんなところ」
雅臣は曖昧な返事をした。自販機の珈琲はもう、とうに飲み終えている。
「まぁ、結婚前だから。しょうがねぇよな」
力なく笑う。そしてふと、高校時代の自分を思い出した。
似たようなことを言っている。
『まぁ、風が良くなかったから。しょうがねぇよな』
――陸上で思うように記録が出ないと、つい、全部を風のせいにした。克服したいのに、正しく向き合えなかった。
向かい風が吹いていた。追い風がなかった。一因であってすべてじゃないことを、まず口にした。ただ結果を受け止める人間が、羨ましくもあった。
結婚前ということは、喧嘩の一因でしかない。
……自分は成長していない。高校や大学で部活に打ち込んでいた、あのときから。
もの思いにふけりながら、雅臣は携帯を見た。午後五時四十分。若葉からの連絡はない。
かわりにスケジュールアプリの通知が、目に入ってきた。
「……やっちまった」
雅臣は空の紙コップを、専用のボックスに入れた。
「俺、仕事に戻るわ。六時からのミーティングが終わったら、速攻で帰らせてもらう」
「急にどうした」
雅臣は二度、頭を掻いた。
「今日は夜の七時半から、ケーキ屋と打ち合わせの日だった。……完全に抜けていた」
揉めていてそれどころじゃなかったと、つい口走った。
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