2. オーダーメイドの頼み方

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 雅臣は洋菓子店 La maison(ラメゾン) en bonbons(アンボンボン) まで行く途中で、閉店に間に合うよう走った。どうにか閉店五分前には到着した。  まず、入口の前で辺りを見回していた従業員が、雅臣を出迎えた。 「津久田さま」  以前も店にいた、女性従業員だ。少し幼く見える。 「よかった。今日はもう来られないかと、心配していました」  彼女は朗らかにほほえみ、仁科を呼びにいった。 「いらっしゃいませ」  奥から現れた仁科は、約三十分の遅刻が気になるのか、態度に刺があった。 「本日は十九時半から打ち合わせの予定でしたが、なにかトラブルでも」 「いいえ。……すみません。予定を忘れていただけです」  雅臣は息を整えながら、頭をさげた。 「………」  仁科は雅臣がひとりできたことと、走ってきたことに気づくと、顔をしかめた。  店長である男性が、仁科の横に並ぶ。アッシュブロンドの髪が、帽子の下からのぞいている。 「お仕事のあとで来ていただき、ありがとうございます」  雅臣は深く頭をさげた。 「いいえ。閉店時間にお邪魔してしまって、申し訳ありません。……本当は婚約者も連れてくる予定が、駄目になってしまったもので……ひとこと、謝りに来たのです」  店長の男性は『もう謝らないでいい』と、丁寧に促した。 「店長」  仁科が張りのある声を出した。 「すみませんが、このお客さまと、外で話してきていいですか?」 「………。どうして」 「知人として話したいからです」 「今さら、目が届かないところで?」 「はい」  店長の男性はいぶかしんだ。厳しい目つきになる。 「少しの間でいいんです。話が進まないのは、僕の落ち度ですから」 「きみに任せた私の落ち度だよ」 「……今回だけもう一度、お願いします」  仁科は引きさがらないようだった。女性従業員はバックヤードで、いたたまれなさそうな顔をしている。  店長は天井を見あげ、溜息をついた。そして仁科に言った。 「裏口に行って。十分間だけだよ」 「ありがとうございます」 「東山さんはその間、明日の仕込みやって」 「はい。かしこまりました!」  目上の男性は指示を出すと、雅臣と顔を合わせた。優しげに笑う。 「津久田さま。裏口の鍵は開けておきます。寒くなったら、いつでも店内にお入りくださいね」 「あ、はい」  笑顔からは、不穏なものも感じた。
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