2. オーダーメイドの頼み方

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「こう、別々で暮らすのももったいない……とか。そういう、流れだったような」 「……もう一回やり直す気でいかなきゃ、駄目だと思って。俺が間違っていたから」 「……ううん」 「この間は……怒鳴ってごめん」  雅臣は熱い珈琲を飲みながら、言葉を探った。  三口飲み、マグカップを置いた。 「仁科と話してわかったんだ。俺……」 「………」  若葉は両手を膝に置いて、言葉を待った。  雅臣が言いよどんだので、冷蔵庫のモーター音が、ふたりの耳に入る。 「……若葉が付き合った人数じゃなくて、若葉が好きになった男の人数が、もう問題なんだって」 「……え」 「若葉は付き合ったほかにも、俺と同じように、いろんな恋をしたんだろうなって。そう思うだけで」  雅臣は片手で額を押さえた。 「いらいらする」 「雅臣……?」 「危ない考えだとは思うけど、もうどんな男だったか、全員、聞き出したい」 「あ、うん。落ち着いて。ほんとに危ないひとは、合鍵を返してくれないから」  若葉はそっと、うつむいている雅臣の頭を撫でた。 「あと……雅臣だけ、好きだよ」 「本当だな」 「はい」 「……若葉が、好きなんだ」  雅臣は自分を撫でている、若葉の手を止めた。そのまま両手で握る。 「……結婚式のことで怒ったけど、本当は、あれこれやってくれる若葉が好きだ。俺もなにかしてやりたいって、思えるから」  若葉はどう答えていいかわからず、つい下を向いた。 「……もっといい女、いるよ」 「星の数だけいる。でももっといい女は、俺にまったく惚れないから、願いさげだ」 「うん雅臣。その言葉、そっくりそのまま返すね」 「だから……うまくいかなくても、諦めたくない」  繋いだ手が、温かくなっていく。 「俺だけを見てくれなんて、無茶苦茶だとはわかっている。だけど嫉妬も抑えるから」  雅臣はつい、少し大きな声を出した。 「頼むから完全に愛想がつきるまで、側にいてくれ!」 「わかった。わかったから!」  若葉はまず「手を離して」と言った。そして残りの珈琲を飲むように薦める。  雅臣も若葉も、ただ黙って珈琲を飲んだ。  雅臣はブラック珈琲を飲みながら、若葉の様子をうかがった。若葉は赤い顔で、砂糖とミルク入りの珈琲を飲んでいる。いつになくおとなしい。  やがて雅臣が自分を見ていると気づくと、マグカップを置いた。 「そんなに妬くんなら、今日私がどこに出かけていたか、気にならないの? ……休日に出かけていたのに」  試すような視線。若葉の目元は腫れていた。 「……どこへ」雅臣の声がかすかに震えた。  若葉は雅臣が動揺したとわかり、息を吐いた。 「女友達と会っていただけよ」  若葉は『四人彼氏がいた』と口を滑らせた友人と、レストランにいたらしい。 「あの子とも喧嘩して……あとは、どうやったら雅臣ともとに戻れるか、相談に乗ってもらっていたの。……この歳で散々泣いたってのに。ばかばかしい」  若葉は立ちあがり、冷蔵庫まで歩いた。 「食べた気がしない」と、冷凍庫から三日前のパンケーキを取り出す。  パンケーキをレンジに入れると、雅臣の側に寄った。 「私から雅臣に近寄ったのに、なんでわかってくれないの」 「……なんでだろうな」 「一番長続きしたの、もうとっくに雅臣だよ。……そういうのも聞くのいや?」 「それは、ちょっと嬉しい」 「良かった」  若葉はほほえんだ。  雅臣が照れたと気づくと、その肩に頭を預けた。
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