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「最後の問題。……そのジンジャーシロップで、僕はなにを作ろうとしていると思う?」
「え」
「正解したら、その作ったものをあげるよ」
栞は固まった。一瞬、なにを言っても答えを変えられるのではと、心配になった。
「冷凍庫を見るのは禁止ね。答えが一発でわかるから」
いらない心配だったようだ。栞は大きな冷凍庫を見ながら、答えを探った。
……あのシロップでシャーベットを作ったら、どんなに美味しいだろう。だけれど問題を出しているのは自分じゃない。この店の店長だ。
「えっと……なにか作ろうとしているわけじゃなくて。店長はお店の商品として、ジンジャーシロップを開発中なんだと思います」
栞は淡いピンク色の瓶を、ぎゅっと握った。冷凍庫にはきっと、シロップの使用例として作られたお菓子がある。
「夏の新商品を開発している最中……ジンジャーシロップそのものが、店長が、作っているものだと思います」
安藤は栞の真剣な表情を見て、ほほえんだ。そして拍手をした。
「はずれ」
「えっ」
「けど、奨励賞ってとこかなー。商品化したいとは考えているんだよね」
安藤はまた壁時計を見た。その横顔は楽しそうに見える。
栞はピンク色の瓶を持ったまま、肩を落としていた。
調理場には焼きたてのクッキー。そしてレモンやスペアミントが、それぞれ良い香りを漂わせている。
ショーケースには、つややかなゼリーに包まれた白桃のタルト、紫陽花を模したジュレ、二種類のグレープフルーツが飾られたショートケーキ……華やかで親しみもある洋菓子たちが、何種類も並べられていた。
さまざまな色彩と触感の調和。栞が好きな光景だ。
「東山さん。大げさなテストじゃないって言ったじゃないか。だいたいこんなの全問正解したって、どうってことないよ」
安藤は優しい声だったが、栞には毒舌に聞こえた。材料をすべて言い当てたときは、自分が誇らしかったのに。
「きみがどんなひとでなにを考えているか。もう知っているから、こんなテストで採用を取りやめたりしないよ。今日は、今後の確認をしたかっただけ」
「店長」
「来年の春からもうちに来てくれるなら、嬉しいよ。いつもお店やお客さまのためにありがとう」
栞は、安藤に温かみを感じた。
安藤は再び「きみがどんなひとか知っているよ」と、ほほえんだ。
「東山さんは……たまに厳しく言わないと、駄目なんだよね」
冷めた口調で続けた。
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