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プロローグ
私はとても怖がりだった。
子供の頃、夜中にトイレは一人で行けなかった。若い皆さんはご存知ないかもしれない、ぼっとん便所。底が見えない恐怖。いつか血まみれの手に襲われ、 引きずり込まれるんじゃないかと、何故か信じていたのだ。見たことは、一度もないのに。
昔、流行った口裂け女。
口元を完全に隠すほどのマスクをした若い女性が、学校帰りの子供に 「私、綺麗?」と訊ねてくる。「きれい」と答えると、「……これでも……?」と言いながらマスクを外す。するとその口は耳元まで大きく裂けていた、というもの。「きれいじゃない」と答えると包丁や鋏で斬り殺される……
私が、この話を初めて聞いた時、怖さのあまりに一人で学校から帰れなくなった。その時、校区の変わる地に引っ越したばかりで、一緒に帰るのは兄しかいなかった。母からは、必ず兄と帰るよう言われていたが、学年が違う兄は、友達と遊びたいのだろう。私は一人で帰るしかなくなっていた。
結局、同じクラスの女の子が、遠回りして家の近くまで一緒に帰ってくれたのだが、この時、問題が起こっていた。その女の子は、生まれてすぐに大病を煩っていたという。帰宅が遅くなった事で、行方不明になったと大騒ぎだったらしい。後で母親からこっぴどく叱られた。
暫くした後、転校した私は、数年後、その女の子が病を再発して、亡くなった事を知った。その事実を知った衝撃で、暫く眠れなくなった。
同世代の死の恐怖をまざまざと感じたのだ。
それが今じゃね……
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