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最高のプレゼント
僕には一人の息子がいる。
去年妻と離婚し、今は息子だけ。
僕は25歳で息子はまだ2歳後半の幼児だ。
息子は僕のことを「あーくん」と呼ぶ。
名前が「厚」だから。
そんな可愛い息子「環」のことを僕は「たーくん」と呼んでいる。
たーくんはすごく我儘で泣き虫でお調子者で、子供の中の子供、ザ・子供だ。
おとなしい時なんてめったにないし、僕が怒るようなことをすぐするし、悪戯好きだ。たーくんを少し叱ればすぐ泣きじゃくるし、泣き止めばまた調子に乗り出す。
ほんと、頭を抱えるよ。
けど、それ以上にたーくんは優しくて良い子だってわかっているからそんなにも怒らない。僕が落ち込んでいる時なんか笑わせようと一生懸命になってくれることもある。
大人なんだし子供の前でくよくよんんかしていられないなって思うよ。
そんな僕とたーくんの、ある日のことだった。
年が明け、妻のいない新年を迎えた僕とたーくん。
今日は一月一日、お正月なので腕によりをかけたおせち料理を用意した。勿論、子供が喜ぶお年玉も。
「たーくん、あけましておめでとうございます。」
「おめでとう、ごじゃいましゅ。」
「今年も、よろしくお願いします。」
「おねがいちましゅ。」
まだ喋り方がぎこちなく、それがとても初々しい。
微笑みながらたーくんの頭を撫でてはそう思う。
「はい、お年玉。」
「これ、なーに?」
「これはね、お正月の時に新しい年をお祝いするために大人から子供に送るお金だよ。って、たーくんに説明してもまだ早いね。」
「おとちだま・・・。これで、なにかかえる?」
「うん、たーくんの欲しいもの買っていいんだよ。」
一応中には千円入っている。千円以上に高い品物を買いたいというなら、残高は払ってあげようと考えていた。あまり高すぎても困るが・・・。
「じゃ、これはあーくんが持ってるからご飯食べよっか?」
「うん!」
ご飯を食べ終えた僕とたーくんは出かける準備をして家を出た。
初詣に行こう・・・と思っていたが初日早々人が多く車が止められない。
ので、初詣は後にしてショッピングモールに向かった。
「わぁぁ~、ひろいね、あーくん。」
「そうだね。たーくん、どこか見たいとこある?」
「んーと・・・あ、あそこ。」
「ん?あのお店で良いの?」
「うん。」
たーくんが見たいといったのは防寒着がメインのお店だった。
何か温かいものが欲しいのだろうか。
まあとりあえずたーくんが行きたいというので行ってみることにした。
「たーくん、何が欲しいの?」
「んー・・・」
悩み中なのだろう。
キッズ用も見てみたが『欲しい』という品物はなかったみたいだ。
まあ、他のお店も回るので欲しいものは後からでも勿論いい。
その前に、僕も何か防寒着が欲しいなと思い、メンズ用の防寒コーナーも見てみる。
「うわ、これあったかそー・・・、あ、こっちはマフラーか。」
その中で、ふと見つけたもの。
過去に妻が僕にプレゼントしてくれたマフラー。
値段は決して高いものではない。でも、そんなのは関係なく大事にしていた。
そのマフラーは妻が間違えて持って行ってしまったみたいで、僕は持っていない。
(すごく嬉しかったな・・・。)
懐かしむように売られているマフラーを眺めていると。
「これ・・・。」
「どうした、たーくん?」
「これ。まふらー、ほちい。」
「え、このマフラー欲しいの?」
「うん。」
何故か僕が見つめていたマフラーをたーくんが欲しがった。
デザインが好きなのだろうか。
たーくんからしたらかなり大きいと思うが・・・。
「これほちい。」
「・・・わかった、買いにいこっか。」
たーくんの頭を優しく撫で、マフラーを手にとってはレジに向かいお年玉の千円をレジの人に渡した。
商品を受け取りお店を出るとたーくんは嬉しそうな表情をしていた。
「あーくん、ここ、すわって。」
「休憩する?」
「うん。」
疲れたのだろうか、って、たーくんは僕が抱っこしてるから疲れるのは僕だけだろうけど・・・。
ショッピングモールによくあるソファに座るとたーくんが靴を脱いでソファの上を立ち始めた。
そして先程買ったばかりのマフラーを取り出した。
「もうつけるの?」
「あーくん、これ、とって。」
「あぁ、タグね・・・、はい。」
「あーくん、おめめちゅぶって。」
「ええ?なんで?」
「はやく。」
「う、うん、わかった。」
言われた通り目を瞑った。
たーくんはさっきからいったい何をしたいのだろうか。
不思議に思いながらもたーくんのしたいようにさせようと思ったが、察した。
首元がもぞもぞする。
「あーくん、おめめあけていいよ。」
「・・・っ。」
「これ、あーくんにぷれぜんと。ほしそうだったから。」
首元には歪な形に巻かれたマフラー。
そして少し照れたよなたーくんの顔。
「たーくん・・・っ、ありがとう。」
「ふえぇ、なんでないてるの?うれちくなかった??」
「っううん、嬉しいよ・・・。」
思わず涙が出てきてしまった。
ここは人通りの多いショッピングモールだというのに。
僕の息子がこんなにも良い子だなんて・・・。
息子の前では泣かないって決めたのに、新年早々泣いてしまった。
「ありがとう・・・・、ありがとな、たーくん。」
「わ、あーくん、くるちい~。」
涙を拭いぎゅっと息子を抱きしめる。
ほんと、僕は幸せだ。
これ以上の幸せは何もないくらいに。
息子に恵まれたな。
息子の愛情が詰まった暖かなマフラーと、息子の笑顔。
今年初の最高のプレゼントだ。
「たーくんのマフラーも、買いにいこっか。」
「うん!」
そうしてたーくんのマフラーも買いに行き、マフラーをつけて初詣へ行った。
ありがとうね、たーくん。
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