闇仕事の宿

プロローグ

それは衝撃的な言葉だった。
学校で学んだ青天の霹靂という言葉は
まさにこういう事をいうに違いない。

「私、妊娠したみたい。産んで良い？」

「え。今……何て？」

何言ってるんだろう。
誰に言ってるんだろう。
何の冗談だろう。

カムチャッカ半島で
珍しい動物が発見されました……と、
自分からとてつもなく遠い場所から
偶然流れてきたニュースを
ぼんやり聞いている気分だった。

当時１６才だった僕、聖石(ひじりいし)光太(こうた)は
忍田夏生(しのだなつき)の顔を凝視した。
まるでそこにこのクイズのヒントが
隠されているかもしれない……
とでもいうように。

奇妙な世界というものは
何食わぬ顔をして日常の中に紛れている。

わずかな齟齬を有耶無耶にして
ウッカリそのまま見過ごすと
元の世界に戻れなくなってしまう事だって、ある。

いつもと変わらず枝にとまっていた虫が
一瞬の隙をついてカメレオンの舌に
絡めとられてしまうように。

そう。その時はまだ、これが全ての始まりと
僕は知るよしもなかった。

誰かに始めから、
仕掛けられていたのかもしれない。

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※この小説はフィクションです。
実在する宿泊施設やその関係者を
否定、或いは揶揄するものでは
ありません。あらかじめご理解下さい。