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面接
コトリ。コトリ……。
微かな音がした。
何の音かと目を遣ると、
それはハードロックな痩せ男が
おびただしいピアスを
1つ1つ外しては
長細いテーブルの上に
並べている音だった。
─── え?
あの条件聞いて
真っ先に帰ると思ってた。
まだ面接受ける気なのか。
「オイ。お前何している」
山尺と名乗る男と鶏ゴボウが
一触即発で喧嘩を始めるのでは……と周りの空気が一瞬張り詰める。
「見りゃ判んだろ。
ピアス外してんだよ」
痩せ男は屈強な山尺相手に
ひるむ事なくぞんざいな口をきく。
山尺はフンと鼻で嗤って
鶏ゴボウの腕を掴む。
腕の太さがまるで対照的だった。
「腕のタトゥーは何だ」
「タトゥーは駄目って
言わなかっただろ」
「真言か。お前、火使えるのか?」
猛禽類みたいな山尺の視線が
わずかに緩む。
鶏ゴボウは山尺の腕を振り払う。
「ああ。
コッチじゃ使わないけどな」
「まぁ、良いだろう。
髪色は気にくわんが
名前を呼ばれたら入れ」
「仕方がないだろ? 髪は自毛だ」
鶏ゴボウは
吐き捨てるように言った。
全てのピアスを外し終えるとそれを
尻のポケットへ乱暴に突っ込む。
山尺はパイプ椅子に座る数人を
その場に残して隣の面接部屋へと
戻って行った。
しばらくすると扉が開いて
山尺の部下と思われる黒服の男が
「イボンヌって居るか? 中に入れ」
とあのゴスロリ老女を面接部屋へ
招き入れた。
老女は
年を感じさせない身のこなしで
ビスクドールを胸に
面接部屋へと入って行った。
テーブルの上で
置き去りにされていた
ハサミを手に。
10分程して
部屋から出てきたゴスロリを見て
順番待ちの人々は誰もが思わず
息を飲んだ。
──髪が……。
老女にしては
不自然だった長い黒髪が
顎の位置でバッサリ切られていた。
それを見て怖気付いた数人が、
又も席を立って部屋の外へと
逃げて行く。
「坊や、一緒に働く事になると
思うけど……よろしくね?」
── マジか。
ゴスロリ……採用なのか?
焦りと微かな苛立ちを
感じながらも、
年老いたゴスロリが差し出す手と
僕は仕方なく握手をした。
何かに違和感を覚えながら。
そうしている間にも
面接部屋へ次々と呼ばれて行く。
見た目年齢不詳の山吹双子が入り、
手のひらでレゴを弄ぶ少年が入り、
酔っ払いが入り、
ハードロックな鶏ゴボウが
入り……。
面接部屋から入れ違いに
肩を落として帰る者。
まるで既に100万を
手にしたかのように
喜びに打ち震え笑いを噛み殺し
軽やかに帰る者。
悲喜こもごもで微妙な空気。
何故か最後に二人が同時に呼ばれ、
タマキを先頭に僕は恐る恐る
面接部屋に入って行った。
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