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Act.1
――でも、養父母も実母も死んでしまったはずなんです。
一度危険を冒してお墓参りをしたこともある。過去に追われていた時のはあの三人が防波堤になってくれていた、だから今追われてもおかしいことはない。ないのだけど―
「追ってきていたのはたしかに、母でした」
あの栗色の髪をした女性は死んだはずの実母だったという。私の目に狂いがあったわけではないようだ。
「信じてくれるんですか……?」
「もちろん、せっかく踏み込んだ話もしてくれたし。他人から見たってあれはお母さんだと思うよ」
大きいことに巻き込まれちゃったかな。
何でもに首を突っ込む癖があるから、前にもおかしな事件に巻き込まれてしまったことがある。それはまた、別の話だが。
とにかく、しがないライターの女一人の手には負えないでかい事件っぽいことは判った。
「話が通じなかったんだっけ」
「はい、錯乱した様子でわたしをどこかに連れていこうとしました」
「助っ人、呼んでいい?今日何曜日だっけ」
「ええ。今日は……木曜日です」
「じゃあ連絡だけしておこうかな。学生は今の時期休みだかんね、気にしなければうち泊まってもいいよ」
話しているうちにすっかり打ち解けたリズは安心しきって就寝した。我ながら人の心を解くのは得意なのかもしれない。一生こんな田舎じゃ使わないと思っていたが取材での対人スキルが活かせて良かった。
電話をかけようと廊下に出る。スマホの連絡先でほとんど最近使っていない欄。もう連絡しないだろうと思っていた名前。
「もしもし、為平?」
『もしもし。何時だと思ってるんだ?昼夜逆転するような職業じゃないだろう。まだ不健康が人型になったみたいな生活か?」
為平裕太という男は私が最もこの手の”事件”に関して信頼している人間だ。が、このようにひとつ投げかけると倍になって返ってくるところに大変腹が立つ。それに、一応この件を投げかけるにあたって気がかりなことがあった。
「―というわけなんだよ。手を貸してもらえないかな」
『嫌なこった』
そう言うと思った。
「そう答えると思ったうえで電話してるんだよね!」
『通信料の無駄では?』
彼は妹が行方不明だ。
「見つかるかもしれないよ」
ちょっと外道な策だと思ったうえで畳みかける。
「逆だよ為平。その件に触れなければ痛まない代わりに何も得られない」
為平の家はご先祖さまからの因縁がドイツにあって、それを調査していた妹が行方不明になった。今回はドイツの家の女の子の助けだ、何かお前も情報を得られるかもしれないだろ。
こじつけだ。こじつけだとも。ドイツ人が何千万人いると思っている?それでもゼロじゃない。可能性はゼロじゃない。
『わかったよ、もうその聞き苦しい御託を並べるんじゃない。莠のことはいい。でもそいつも妹だっていうなら無碍にもしづらい』
「じゃあ!」
『調査を請け負ってやる。でも俺より先に連絡すべき場所があっただろ、そいつの兄という人とかな』
そういえばそうだった。お兄さんがいるんだったら連絡するべきだった。どこか浮かれたところがある、気を付けなければならない。
私は為平に礼を言って電話を切った。日付はもうとっくに変わっていた。
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