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Act.2
翌朝、お兄さんには連絡をしたのかと尋ねるとリズはしていないと答えた。そっか、と呟いて私は味噌汁をかき混ぜながら精一杯の言葉選びを試みる。
「電話が難しくてもテキストは送ったほうがいいかなと思って。あと助っ人はちょっと腐れ縁の奴が頼まれてくれました!」
今日は金曜日、一日何もなく過ごせれば明日為平と合流して何かしら手立てを考えられる。
「ありがとうございます。本当に、見ず知らずのわたしに……」
「今更でしょ、それにきみも見ず知らずにしては私のこと信頼してくれたわけだし応えなきゃと思って。この地域の毒なんだ、お節介なの」
朝食を用意して横にパソコンを置くと不思議そうな顔をしてパソコンを見つめられてしまった。
「ごめん…いつもの癖で…行儀が悪いことはわかってるんだけど。そして朝食のメニュー、食べにくいものがあったら残して大丈夫です」
「いえ、和食にもだいぶ馴染んできましたから。それお仕事ですか?」
「うん、私小さい地域紙とかネット記事のライターやってるの。それで最近毎日図書館通い詰めで」
「あそこはなんだか過ごしやすいですよね」
「そうそう。そういえばよく来てるって神崎さんも言ってたね」
一瞬、ほんの少し、頬張る魚のせいじゃなくリズの表情がこわばるのを感じた。
「最近行けてなくて。少し前はしょっちゅう行っていたんですけど」
そう小さく言って彼女は味噌汁をすすった。ずず、といい音がした。
「……実を言うと昨日のこと、何かある予兆があったんです。兄から今まで住んでいたあの別荘にわたし宛の手紙が来たと連絡があったから。それで長期休みだし外出を控えようと思って」
神崎さんもしかしたら心配していたかも。申し訳なさそうにそう付け加えた。
「落ち着いたらまた行って元気ですって言えばいいよ、なんでもそれでチャラ。あの人顔見たらそれまで心配していようが何だろうが世間話で忘れちゃうし」
「ふふ、…そうします」
「それより、その別荘?に手紙が来てたって。昨日の話だとお兄さんもリズもその家を離れて何年か経ってるみたいだけど」
「逃げるように移住してきたので住んでいた時もあまり手紙の類は来ていませんでした。なおのこと何だったんだろうと」
そんな大事なことどうして教えてくれなかったんだ。
いや、逆にいい情報を得た。明日の行動は決まったも同然じゃないか。
「なるほどね。やることが決まったわ」
食べ終えて綺麗に積まれた食器を回収しながら懇切丁寧に計画を説明した。驚きながらもリズはお兄さんに連絡をとってくれた。私は私で為平に連絡をし、その別荘への行き方を調べた。
その日の夕方、しっかり戸締りを確認して近くのスーパーに買い物に出た。リズには窓からのぞけない場所にいるようお願いをし、私はいつもスーパーに行くのとは違う格好で出てきた。念には念を、だ。
ちょっと夕飯の材料を買いに来ただけだから、十分程度しか滞在しなかったと思う。
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