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当時遠距離で付き合っていた美香とも結婚し、はや数十年、
今となってはたまに遊びに来る孫の面倒と、
猫のニャンタが癒されるひとときだ。
当時美香が作ったマフラーは今でも有効活用されている。
マフラーと言っても手編みの方じゃない。
彼女は車のマフラーをいちから作り上げた、
ある意味、無駄に多彩な才能を持つ娘だったのだ。
「ねぇ、あなた。ここのとこ掛けてくれる?」
やや曲がった腰を伸ばすのがしんどそうに美香は言う。
洗濯物を干す彼女も、もういいおばぁちゃんだ。
だが、その干している先にあるのは自身がつくったマフラー。
ほぼ鉄パイプのような1本物の自動車のマフラーは、
当初オブジェとしていたが、
いまでは家の梁にかけて物干し竿がわりになっている。
『この曲がったところが、洗濯物がぶつからなくていいのよ』
自分の作品を褒めるかのように言っていた彼女も、どこか微笑ましい。
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