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せめて、共通の友人がいるとか、友達の想い人だとか、元彼だとか
会社が近くとか、マンションが同じとか、そんな分かりやすい縁があれば、これは“運命”だ!なんて思えたのかもしれない。
ただ、忘れない程度の縁があった。社会人になっても。
「あれ?」
すれ違い様にそう声を掛けられて振り向いた。
スーツがよく似合う……男の人。
「あ!」
「なんだ、久しぶりだな」
どこから、遡って久しぶりだと言うのか分からないお互いの認識の中で
「うん、仕事?」
「そ。このへん営業来てて。今日は直帰。……えっと……?」
……この人、私の名前、覚えてないな。それにちょっと苦笑いしたけれど、無理もない。誰かがお互いを呼ぶような場所に居合わせたこともなく、自分たちで自己紹介するか、卒業アルバムで調べるかしない限り、知る由もないのだ。
調べてないって事は、大瀬戸くんも特に気にしてないって事だ。
「あ、私は会社がそのへんで……今日はもうおしまい」
会社の方向を指差しそう言うと、沈黙が数秒、続いた。その続く沈黙に
「飯でも行く?」
彼がそう言った。
────
──
近くの店に入ると初めて向き合った。知ってるのに、知らない。そんな大瀬戸くんと。
「橋川美都です」
「大瀬戸直紀です」
お互いに自己紹介で爆笑した。
「今更、自己紹介かよ。それにしても、忘れかけた頃に、こうやって会うよね」
「うん、そうだね。高校の同級生なんて、仲良かった子さえ殆どが疎遠になってるっていうのに」
「……森は?」
「高校卒業までには別れてたよ」
「あー、そう。……ハジメテ……の? 相手だったり」
「そういうのは、もう少し飲みすすめてから」
ビシッと大瀬戸くんを戒めた。
「……飲み進めたら、言うんだ。意外!」
何だ、からかわれただけか。そうは思ったけれど言い返す。
「大瀬戸くんが言うなら」と。
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