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意を決して玄関の扉に鍵を差し込むと、私は扉の取っ手をそっと引いた。
久しぶりに入る我が家の玄関には、スニーカーがゴロゴロと行儀悪く転がっている。何人分も。
もしかしてAirのメンバーがいるとか? だとしたらどうしよう。
いきなり踏み込んで、『芸能界なんて絶対ダメ!』なんて言って、話が通じるだろうか。
逆上して怒ってきたら怖いな……。
私は靴を玄関に揃えて脱ぐと、音を立てないようにそっと家の中へと足を踏み入れた。
リビングからはワイワイと話し声が聞こえる。同年代くらいの男の子の声。
その中に聞き覚えのある琉心のものはなくて、私の背中を緊張の汗が伝った。
実は男の子ってちょっと苦手だったりする。
何しろ中学からずっと女子校に通っているせいで、男の子と会話なんてろくにしたことない。
私がリビングのドアの前で戸惑っていると、目の前でガチャリとドアが開いた。
そして中から男の子がひとり出てきた。
「っ……」
隠れる場所も時間もなく、真正面から思いきり目が合う。
長めの前髪からのぞく、涼やかな切れ長の瞳に、吸い込まれたみたいに動けなくなった。
肌も白くて透明感がある綺麗な男の子。
けれどその眼光は鋭く、研ぎ澄まされた刃みたいだった。
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