1. 弟がアイドルに!?

12/38
496人が本棚に入れています
本棚に追加
/228ページ
 意を決して玄関の扉に鍵を差し込むと、私は扉の取っ手をそっと引いた。 久しぶりに入る我が家の玄関には、スニーカーがゴロゴロと行儀悪く転がっている。何人分も。  もしかしてAirのメンバーがいるとか? だとしたらどうしよう。  いきなり踏み込んで、『芸能界なんて絶対ダメ!』なんて言って、話が通じるだろうか。  逆上して怒ってきたら怖いな……。  私は靴を玄関に揃えて脱ぐと、音を立てないようにそっと家の中へと足を踏み入れた。  リビングからはワイワイと話し声が聞こえる。同年代くらいの男の子の声。  その中に聞き覚えのある琉心のものはなくて、私の背中を緊張の汗が伝った。  実は男の子ってちょっと苦手だったりする。  何しろ中学からずっと女子校に通っているせいで、男の子と会話なんてろくにしたことない。  私がリビングのドアの前で戸惑っていると、目の前でガチャリとドアが開いた。  そして中から男の子がひとり出てきた。 「っ……」  隠れる場所も時間もなく、真正面から思いきり目が合う。  長めの前髪からのぞく、涼やかな切れ長の瞳に、吸い込まれたみたいに動けなくなった。  肌も白くて透明感がある綺麗な男の子。  けれどその眼光は鋭く、研ぎ澄まされた刃みたいだった。
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!