1. 弟がアイドルに!?

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秋らしい爽やかな風が心地よい土曜日の午後、私は三年ぶりに自分の実家の門をくぐった。 テラコッタ調のタイルが敷き詰められた玄関アプローチを懐かしい気持ちで歩く。 両親がここに住んでいた半年前までは、季節の花々が咲いていたプランターも、今では片づけられて少しばかり殺風景な気がする。  この場所には今は、琉心がひとりで住んでいるはずだ。  『――二人ともアメリカにきなさい』  お父さんは長くなりそうな海外転勤に、私たち姉弟を連れて行こうとした。  けれど私も琉心もそれぞれ日本に残ることを選んだ。  私はすでに星崎学園で寮生活をしていたから、特に困ることはなかったけれど、琉心は高校生の独り暮らしだなんて、結構大変なんじゃないだろうか。  今さらながら、顔ひとつ出さないでひどい姉だったかなと反省をする。  しかも今の私は琉心の芸能界入りを考え直させるという、なんとも自分勝手なミッションを抱えているのだ。自分の保身の為に。 「はあ、なんか緊張する……」  そんな後ろめたさが、玄関に入る私の足を重くした。  ドアの前で深呼吸をすると、胸元でゆれる髪のカールを指でくるりと巻いて整えた。
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