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「……こんな感じかな? それともこう?」
リビングに置いてある姿見の前で、男の子っぽくポージングしてみる。まだやるなんて決めてないのに、万が一のことを考えてたらそわそわしてしまう。
一応ね、一応。お願い叶えてくれるっていうし。しつこく説得されて根負けしちゃったときの為にね。
心の中で言い訳をする。琉心の立ち姿を記憶の中で呼び起こす。
こんなに琉心のことを考えたのは一体いつぶりだろうってくらいに、何度も頭の中で弟の姿を記憶を再生した。
「いろいろ考えてるところ悪いけど、ポージングは考えてあるから。一応」
「ぅわーっ!!」
ふいに背後から低い声が響いて、私は出しうる限りの大声を上げてしまった。
ものすごくビックリした。泥棒かと思ってバッと振り返ると、リビングの入り口にアオイが立っていた。
物珍しそうな顔をして私を見ている。それに気づいた時、顔から火が出るんじゃないかってくらい熱くなった。さっきのポージングを見られていただなんて。恥ずかしさで死にそう。
そういえばハルト達が出て行ったままだから、玄関の鍵をかけ忘れていた。なんてこった。『完璧な女の子』にあるまじき不用心……!
けれどアオイは私の動揺なんでどうでもいいようで普通に話しかけてきた。
「ハルトとユーリは?」
「か、帰った……」
心臓がまだバクバクしている。思わず胸を押さえていると、アオイがずかずかと近寄ってきた。
えっ、と思って身構えると、アオイは目の前でガサガサと紙袋から何かを取り出した。それが金に近い色の綺麗なウイッグだったから、私が目を真ん丸にしていると、それをガボッと頭にはめられた。
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