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皇 陽里にはいつも意表を突かれる。
だからこんなにも落ち着かない気持ちになるのだろう。
『同じ轍を踏むなって事さ』
嶺山 聖に言われた言葉が嫌味な程にはっきりと思い出される。
だから瞬きさえ許さない程に見つめてくる瞳や、触れそうな距離にある唇が胸の底を掻き乱す。
陽里との距離を作ろうとその胸板に手を当てた時だった。
「そう言う簡単な下心じゃないんだな」
上唇に陽里の息がかかる。
押し退けるタイミングを失して、史花は陽里の唇へと視線を下げた。陽里の目を見つめたままでは疑問を言葉にできそうにない。
「じゃあ何?どうしてそんなに、自分を犠牲にするの?」
専属契約だと言い出し、嶺山 聖に挑む様な事をして、与えてくる一方だ。
打算や下心がある様に見せかけられた、何か違うものがある様な気がする。
陽里のこの唇は、どう動くのだろうか。
見てはいけないものを見つめている、そんな気分になる。
「繋がりたいから」
当然みたいにさらりと陽里は告げた。
男女の繋がりだなんて卑猥な直訳をすると肉体関係だろうに、陽里は自分から何度かそのチャンスを手放している。
それではない繋がりと言われても史花には検討もつかない。
「それに独占したいし」
陽里の唇が動く度に、胸が詰まる。
速まった鼓動で胸が痛いし、息苦しい。そして初めて味合う取り留めのない胸騒ぎ。
「姫さんに血を吸われてる間、繋がってる気が ───── っ」
ただその動く唇を止めたかった。
胸を騒つかせる声を塞いで、息苦しく切ない言葉を断ち切って。
史花は押し退けようと陽里の胸に置いていた手でシャツを掴み寄せ、唇を重ねていた。
軽く触れ合った唇から陽里の驚きが伝わり、自分自身の行為に戸惑う。
……………………っなんてこと。
慌てて陽里から身体を剥がし、史花はソファを立つ。
何をどう言い繕おうと、明らかに自分から唇を重ねていた。
「私、シャワー浴びてくるからっ」
何故そうしたか、などと問われても返答に困る。自分自身、訳が分かっていない心理状態で、説明しようにも頭の中は微塵もついてきていないのだ。
「…………今のは忘れて」
陽里の表情を窺う事もなく、史花は早足でバスルームに逃げ込んでいた。
確かにあの時、繋がりと言うフレーズを聞いたあの時に、らしくない思いが過ぎったのだ。
『じゃあ、いっそのこと抱いてしまえばいいのに』と。
こんなの私じゃない…………
陽里の唇の感触が残る。
激しい動揺と高揚感に、史花は必死で蓋をした。
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