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ちょっと待て、オレ。
結局何したかったんだよ………………
『そんな特別な相手からキスされて、忘れるとか無理だから、そのつもりでいて』
兎に角、折角史花のほうから縮めてくれた距離を手放したくなくて、入浴中に押し掛けて伝えられた事は人間不信のカミングアウトと「君が特別」だと言う宣言。
もっとはっきりとした言葉で、自分の気持ちを伝え、距離が縮まったままの関係になりたかったはずが、ガラス一枚を隔て裸の彼女がいると思うと、うまく話せなくなっていた。
自分の不器用さに陽里は辟易する。
どうでもいい相手は適当に受け流し、歯の浮く台詞も言える癖に、史花相手となると先へは進めなくなる。
距離を詰めたくて手を出す割に、雰囲気や流れに乗って身体の関係を持ちたくないと言う謎のストッパーがかかるのだ。
陽里が脱衣所の扉のノブに手をかけると、カラカラと浴室の引き戸の滑車が音を立てた。
あの磨りガラスの扉を誰かが開けた。
いや開けた人物なら一人しかいない。
だが今このタイミングで、一糸纏わぬ姿で、なぜ出て来たのか。
動けずにいると白く湿度の高い空気が背中へと届いてくる。
聞き間違いではない、浴室の扉が開いた。
そして、歩み寄る気配も感じる。
さっきの拙い宣言への、これが答えだとしても、異性として全く意識されてないか、大胆な誘いなのか。
「特別って、人間不信同士で楽だから?」
思っていたより近くで史花の声を聞いて、陽里は咄嗟に振り返っていた。
楽だからなのだと解釈されると、それはそれで困ってしまう。
………………だよな。
振り返ってから、史花を目にして複雑に安堵した。
史花はきっちりバスタオルを巻いている。
全裸なんか見てしまったら、謎のストッパーも何も有りやしない。
とりあえず安堵はしたものの、改めて史花を見下ろすと目が離せなくなっていた。
軽く束ねた毛先から、雫が彼女の肩へと落ち、濡れたままの首筋がやけに艶かしく、白い肌が眩しく見える。
これはこれで充分に官能的で、陽里の中で細胞がわき立つような昂りを覚えた。
誘い、ではない。
それは良く分かっている。
史花の中で直ぐに知りたい答えがあるだけなのだ。
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