第4章 口付けの余波

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「楽だから、じゃなくて…………一緒に居たいと思えるって言う意味で特別、みたいな」 史花が怪訝に目を細める。 「一緒に居たいと思えたら特別なの?」 「オレにとっては、そうかな」 「今まで寝てきた子たちとどう違うわけ?一緒に居てもいいから相手にしてたんでしょう?」 苛立ちを含んだ史花の口調は初めて耳にした訳ではないのだが、どこかいつもとは違う。 「一緒に居てもいいって言うのと、一緒にいたいは全然違うって」 「その特別って、家族になりたいとか子どもを産ませたいとか、そう言う意味なの?」 「 ──── っえ?こっ、子ども?!」 辛うじて冷静を保っていた陽里の声が激しく乱れた。脳内が一瞬にして異次元に飛ばされたくらいの想定外の言葉(ワード)に、取り乱される。 「あの男なんかは、よく言うのよ。私が特別だから自分との子どもを産めば一族の為になるって、だから私と生殖活動を望んでる」 「ダメだって!!」 陽里は声を上げると思わず史花の両肩を掴んでいた。 あの男と聞いて即座に嶺山(ひじり)が頭に浮かんだ。史花の身体を縛り付ける様に捕まえていた光景が過り、例えようもない苛立ちが込み上げた。 道理で所有物みたいに抱え、敵意を向けて来た訳だ。 「そんな一族の為とか生殖活動とかあり得ないからっ、オレはそう言う特別じゃなくて、もっとこう………… 」 史花の髪から水滴が陽里の手の甲を打つのを感じ、陽里は手の平の中にある小さな肩に気を取られた。 女の濡れた素肌に触るのが初めてと言う訳ではない。もっと淫らな事だってしてきた。 それなのに自棄に扇情的に煽られて行く欲情に、陽里は固唾を飲んでいた。 蒸気し桜色の頬に一筋の髪がかかり雫を含んでいる。濡れた前髪は横に流され、いつもは隠されている額も眉間も、そのくっきりと二重の双眸まで曝け出していた。 真っ直ぐに躊躇いなく見詰めてくる瞳がどこか無防備で、肩を晒し胸元ではしっかりと盛り上がる谷間が見えている。 バスタオル1枚、欲望を妨げるのはそれだけに思えた。
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