第4章 口付けの余波

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それなのに、酷く甘美に本能が知らしめてくる。その血が欲しい、と。 腕に抱かれ素肌を感じながら、その行為に没頭できたら、どんなに満たされるだろうかと考えずにいられない。 「…………ただ、我慢できそうになくて」 「我慢する必要、ある?」 目元を覆う史花の手首を陽里が掴み、自分の胸元に引き寄せた。 隠しておきたかった榛色の瞳で、史花は陽里を見上げる。 瞳の色が変化する理由を陽里は知っている。 だから見せたくないと思ったが、見下ろしてくる陽里の目は優しく笑んでいた。 その目が史花を僅かに安堵させる。 血が欲しいと、思われているだけらしい。 「あるに決まってるでしょう。昨日だいぶ頂いてるのよ。連日は負担が大き過ぎるの」 「少しなら大丈夫じゃない?」 「貧血でフラフラなんて足手纏いなのよ」 「ここ出んの?」 「明るいうちにね。一族は極端に目立つ事を避けたがるから、人目のある明るい間は多分何もしてこない、はず。事件沙汰になるのも御法度なの」 「他に移動か」 陽里がふと思案する様に黙り込んだ。その隙に掴まれている手から逃れ、背を向けバスタオルを巻き直す。 「とりあえず、服を着たいから出てくれる?」 背を向けたまま陽里に声をかけるが、反応がない。肩越しに振り返ると、腕を組んだ陽里が珍しく眉を寄せ険しい表情でうつむいていた。 明らかに気配が変わり緊張感さえ纏っている。 「…………あのさ」 陽里が重たい口調で顔を上げもせずに声を押し出した。 (ひじり)の前で手を差し出した時よりも慎重で緊迫した雰囲気に、史花は向き直る事なく続く陽里の台詞を待つ。 「オレん家に来ない?」  ………………………………オレん家??  何を言い出したの? 皇 陽里が突拍子のない事を言い出すのは珍しくないだけに驚く事にも慣れてきたけれど、いくら推察しても分からない事だらけだ。
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