第5章 嫉妬

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「家、って言うか…………まるでビルね」 史花が隣でそう呟いた。 陽里はその横顔を見てとり、史花の手を握る。 今にも史花の気が変わりそうで、気が気ではないと言う事もあったが、家に入るにはそれらしく見せたいとも思ったからだ。 振り解かれる事を想定したが、史花は陽里を見上げ一瞥しただけだった。 キスをしてきてから史花の態度は明らかに変化した。 戸惑いながら突き離し、そうかと思えばキスをしてくる。だがそのキスはまるで一戦を引く為のケジメの様なキスで、牙に掠めて切れた舌先がやけに痛んだ。 少し近づけたと思ったが、また離れた。 戸惑いや葛藤は増えるばかりで、それと同じくらいの独占欲が膨らんでいく。 だから我が家とは呼べない様な家でも、史花を招く事が嬉しいのかも知れない。 「ビルってーか、要塞だな」 鉄筋コンクリート造りの5階建て、ベランダどころか窓も少ない上に鉄格子付き、出入口は1階正面のみで人も車輌も段階を経た認証をクリアしなければ中へは入れない。 「人が住むような場所じゃないけどさ、安全ではあるから」 「今は安全が最優先なんだし、要塞で結構じゃない」 足を踏み出した史花に合わせ陽里は歩き出す。 史花は最初に家に誘った時に断っておきながら、父親の名前を出したとたんに同意した。  ………………何なんだ、一体。 史花の事だから何か考えがあるのか。 史花と父親は知り合いなのか。 知り合いだとしたら、どんな関係なのか。 家に連れて来れたのだから結果良しとしても、父親の名前がそうさせたとしたら、かなり釈然としない。面白くない。
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