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まずは正面入口の扉の前に防犯カメラがある。
モニターされた姿は1階にあるセキュリティールームで守衛が確認しているが、陽里だと認識していてもロックを開けてくれる気配りはない。インターホンを鳴らして「ただいま」と言ったところで指紋認証でロックを外さないと扉は開かないのだ。
「確かに厳重ね」
「厳重過ぎて引くよなー、前もって言っとくと出迎えるのは更にドン引きの無愛想な守衛なんだよ」
「愛想の良い守衛のほうが引くわよ」
「そう言って頂けると気も楽だけど」
機械音を上げ解除されるロックに深々と溜め息を吐いて陽里は扉を開いた。
するとそこに待っている、無愛想な守衛。
陽里の知る限り、24時間365日ずっとここにいる男だ。
「おかえりなさいませ、陽里さん」
細身の体に黒いスーツ、そして一際目立つ白い手袋が潔癖さを思わせる。若く見えるが陽里の父親と年齢はさして変わらないと聞いている。
史花に引けを取らない程に表情が乏しい。
「この方が例の…………」
見るもの全てを疑ってかかる様な郡山の視線が史花の顔から足元までを流れる。陽里は眉根を寄せて史花と繋ぐ手に力を込めた。
「例のとか失礼だろ」
「陽里さんがここに人を連れてくるのは珍しいですから、どう言うご関係かと」
「彼女だよ、彼女」
便宜上、彼女だと言う事で史花とは口裏を合わせたものの口にすると自分でも違和感がある。
今までそんな存在が居たこともない。
ふと史花の握る手の指先が僅かに動いた気がして、陽里は史花を見下ろした。
史花の視線が正面の郡山ではなく、エレベーターに向いている。
そしてエレベーターの扉が開くと、男が出て来た。
誠実と言う字が貼り付いた様な顔、清潔感のある白いYシャツにネクタイ、その見た目とは不釣り合いにも電子タバコを咥えている。
「お通ししなさい、郡山。私が許可しているんだ」
史花が酷く顔を顰めたのが見てとれた。
きっと自分もこんな顔をしているのだろう、と分かる。
「一人息子の大切な恋人なんだから」
榊原 生真は煙を吐き出してから、後援会で振り撒く様な笑顔を史花に向けていた。
いつ見ても、嘘くせぇ…………
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