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父が死んでから暫く祖母の元にいた。
居たくて居たのではない。
連れて来られて仕方なく居ただけだ。
史花の中で消し去りたい記憶。
父が一族から逃げてきたのは知っていた。
『そうせずにはいられなかった』
それくらい母を愛し、父は吸血鬼である自分を捨てた。
そして長老である祖母は、そんな息子を恥じていた。
祖母は恥ずべき行為の元で産まれた孫を愛でる事はなく、ただ一方的に一族のなんたるかを解き、自覚を促し牽制しながら側に置いた。
血を受け継いでいるだけのお飾りである事を明から様に感じさせられていた、ある日。
祖母に会いに来た人間。
………………まさか、あの時の。
全く関心がなかったせいか、ぼんやりとしか記憶にない顔と名前。
ただあの時に自分に向けられた双眸は忘れられない。
人であるのに、一族の誰よりも無機質で生気がない、刃で刺されても黙って受け止めてしまいそうな危うさを孕んでいた。
無鉄砲で剥き出しの野心。
関わりたくない人間だと思った。
皇 陽里に対してもそう思っていたはずだった。
関わりたくない人間だと。
それなのに、いつからこんなに頭の中を占める存在になったのだろうか。
それどころか皇 陽里の存在が中心点に思考が巡る。
どうしたら安全を確保できるのか。
どうしたら、守れるのか。
一族からも、私からも…………
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