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セッポが死んだのはその一週間後だった。
私たちはその日、戦隊の全力である十騎で出撃し、カルヤラ地峡の赤軍地上部隊へ攻撃をかけた。各々が十発の小型爆弾を抱え、戦車や補給車両からなる縦列を超低空で襲撃した。
敵の対空砲火は熾烈で、トラックを改造した対空車両は私たちに向かってシャワーのように弾丸を吐き出した。緑色の尾を引く曳光弾の、地上から天空へと降り注ぐ驟雨。
セッポは一番最後に攻撃した。弾丸を撃ち尽くしたのか対空射撃は弱まっている。セッポも難なく攻撃を終えるだろうと思われた。
私は上空警戒をしつつ、彼の襲撃ぶりを見物していた。彼と彼の魔竜は、大胆にも縦列のすぐ真上で何回も旋回を繰り返し、爆弾で敵の小型戦車を5両も破壊した。
なんとも危なっかしいことをする、少し欲張りすぎだ。そう思っている間にセッポはさらに高度を落とし、今度は小山のように大きな敵の重戦車に攻撃を加えようとしている。
「やめろ、セッポ! もう良い! 切り上げろ!」
私は思わず無線機に向かって怒鳴った。彼はほとんど運動エネルギーとスピードを失い、空中にほぼ静止したようになっている。そんな状態で攻撃を続行するのはあまりにも無謀だ。
無線機は正常に機能していたはずだ。私の声も聞こえていたはずだ。だがセッポは攻撃をやめなかった。両翼に取り付けられた速射魔力砲からオレンジ色の弾丸が発射される。吸い込まれるように弾丸は重戦車に命中し、装甲の薄い天板部分を貫通した。
重戦車は爆発した。数秒経ってから、セッポの魔竜が爆発した。敵の対空射撃が遂に彼を捉えたのだった。ランスカ=ブリタンニア原生種ハイブリッドに特有の非生物的な金属音混じりの咆哮が、離れた場所を飛んでいる私の耳にもはっきりと聞こえた。
断末魔の叫びだった。セッポの魔竜は小爆発を繰り返しながら、低く低く彼方へと飛んで行き、やがて見えなくなった。
セッポと魔竜は、友軍の勢力圏内で見つかった。捜索に当たった歩兵部隊の曹長がわざわざ基地にやってきて、詳しいことを話してくれた。
「セッポ・ハータイネ少尉の攻撃は我々も見ておりました。重戦車を撃破してくださって本当にありがたかった。あれは我々の砲撃をすべて弾き返しますから。少尉殿は我々の恩人です……少尉殿と乗騎の魔竜は、残念ながらほぼ原型を留めないまでに焼け焦げておりました。わずかに残ったご遺体は棺桶に納めて、既に後方へ送っておきました。それから……」
曹長は、私の隣で話を聞いていたヘンリクに、ヒラヒラとした何かを差し出した。
それは真紅のマフラーだった。見間違えるはずはない。ヤンネが死んだ時に首に巻いていたあのマフラーと同じものだ。
「少尉殿が墜落した場所の近くに、このマフラーがありました。樹に引っかかっていて……実を言うと、ご遺体を早く発見できたのもこのマフラーのおかげなんです。遠くからなにやら真っ赤なものが風に靡いているのが見えて、それを目印に進んだら辿り着いたわけでして……」
私たちは顔を見合わせるばかりだった。
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