3人が本棚に入れています
本棚に追加
エルモはマフラーが戻ってきたことに当初は恐怖していたが、数日経ってからそれを熱烈に欲しがるようになった。
理由は、彼の母と妹が赤軍に殺されたからだった。敵機の面白半分の機銃掃射に殺されたとのことだった。
「そのマフラーを俺に寄越せ! 俺はどうしても奴らに復讐しなければならない! 妹はまだ14だったんだぞ!」
マフラーがあったところで敵は殺せないだろう。そう説く私に、エルモは激しくかぶりを振った。
「俺はこれまでそのマフラーが持つ意味を誤解していた。それを巻いて出撃したら死ぬものだと思っていた。確かにそれはそうかもしれない。だけどな、マウノにもヤンネにもセッポにもヘンリクにも、べつの共通点があった。それは、あいつらは大戦果を挙げてから死んだということだ! それを巻けば必ず赤軍を殺せる! 俺一人の命と引き換えに、共産主義者共を大勢殺せるんだ! さあ、俺に寄越せ!」
エルモは自暴自棄になっている。天涯孤独の身となり、戦争が終わっても一人ぼっちで生きていかねばならないという絶望。これまでさしたる戦果も挙げていないという焦燥。それが彼をして、真紅のマフラーに異常に固執させているようだった。
今にも私に掴みかからんばかりに興奮しているエルモを何とか宥めて、私はこう言った。
「まあ待て、俺に良い考えがある」
私は、努めて冷静に言った。
「赤軍を殺すマフラーならば敵にくれてやれば良い。その方がこちらにとっても都合が良い。実は明日、単騎で敵の野戦飛行場を偵察するように命令されてる。俺がマフラーを持って行って、偵察がてら奴らの頭の上に投げ込んでやるよ。真紅のマフラーだ、赤軍の奴ら『自分たちの軍旗と同じ色だ』と、喜んで身につけるだろうよ……」
エルモは強硬に反対し、なおも私にマフラーを寄越すよう要求したが、最終的には私の考えを聞き入れてくれた。
最初のコメントを投稿しよう!