第2章 魔王を継ぐ者

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第2章 魔王を継ぐ者

「――サロンよ、あなたはなぜその仮面を着けているのです?」 カタコリーナ王国より、荒れ狂う〝じゃじゃ馬海〟を渡って一日の距離にあるブラックサンダー島……。  その中央にそびえる山の頂に建つ城の大広間で、玉座に座る魔王は臣下の騎士サロン・パースの顔を見つめながら尋ねた。  三人の勇者の冒険により、その恐ろしげな名前や外見に反してじつは優しい良い人であるとようやく世に理解されたため、それまで身に着けていた鉄仮面を外し、今は頭から生えた二本の角も、青い皮膚に覆われた顔も堂々と露わにしている。 「無論、これは人々から恐れられし魔王の象徴であるからです。そう。かつてそうだったあなたのように……」  魔王の質問に、鉄仮面を着けて跪くその青年は、黒鉄に穿たれた穴から覗く鋭い眼光を主君に向けて答えた。  魔王が訝しがるように、このサロンという魔族の騎士はもういらないからと魔王がオークションに出したその鉄仮面をお小遣いはたいて競り落とし、なぜか現在、自らがそれをかぶって素顔を隠しているのである。  また、その身は全身黒づくめであり、茨の城で有名な南の農業大国ソダッペ王国名産の「ボンタン」というパンツを履き、同じく特産品「長ラン」という丈の長い上着をマントのように羽織っている。 「昨今、世にはびこるは偽物の勇者ばかり。今の世に、真に〝勇者〟と呼べるような者はもうどこにもいない……それはなぜか? それは、勇者が倒すべき絶対的な恐怖が存在しないからです!」  見た目だけは恐ろしい主君にも物怖じすることなく、サロンはさらに続ける。 「かつてはあなたがその恐怖の象徴だった……だが今はどうだ!? 私が畏れ憧れた魔王は今や〝あ、強面だけどじつは優しい人なんだあ…〟的な代名詞となり下がり、年端のいかぬこどもまでがア●パンマン並に慣れ親しんでいる……あなたがもう恐ろしい魔王でないというのならば、私が新たな恐怖になるしかないではないか!」  語る内に段々と興奮してきたサロンは、ついには立ち上がって叫ぶように宣言する。 「これより私は鬼騎士〝ナーマ・ハーゲー〟と名乗り、この日のために密かに母校で育成していた学生精鋭部隊・学徒ルーパーを率いてカタコリーナ王国へ攻め入ります。泰平のぬるま湯に浸かり、すっかり堕落したやつらに思い出させるのです! 絶対的な恐怖の存在を! そして、それに立ち向かう勇者の尊さを!」 「なんと恐ろしいことを……あの誰よりも勇者に憧れていた心優しき少年はどこへ行ってしまったのです? ……サロンよ、それは勇気ではありません。あなたは勇者のツッパリ面に堕ちてしまっている」  前に出した拳を強く握りしめ、「本気」と書いて「マジ」な様子の彼に、震える瞳をした魔王は嘆くように語りかける。
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