第3章 勇者の招集

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 さて、そうしてバンテの説得が無駄に終わる一方……。  国中の掲示板に「鬼騎士がオニ怖くて熱出ちゃった。誰かコリトルのこと助けてくれる勇者さまいないかな?」というキャプションを付け、36度9分という微妙な熱の体温計を持った病床の肖像画を貼ったコリトル姫であったが、SNS(※しつこいようだけど「即興で なんか描いて 宣伝」の略)を使ったその呼びかけの効果も芳しくはなかった。  女子の反感はもちろん、男子の真に心ある者達も姫のキラキラ女子っぷりにもとより彼女を良くは思っておらず、姫の表面的な美しさに騙されている愚かな野郎どもも基本ヘタレなやつらばかりのため、皆、噂に聞く鬼騎士を怖がって手を挙げる勇者など現れなかったのだ。  それでも唯一名乗り出たのは、類は友を呼ぶとでもいおうか、同じSNS(※もう一度説明すると…え? しつこい?)仲間で、自分に無根拠な自信のあるヨツベエ、ツイタという二人の男だけであった。  ヨツベエは街頭でちょっと人が真似しないような、ある種勇者(・・)的なことをしておひねり(・・・・)を集める大道芸人であるが、そのやっていることといえばワインボトルに入った炭酸水を一気飲みしたり、生卵を連続で飲み込んだり、唐辛子たっぷりのジュースをやっぱり一気飲みしたり……と、どれもこれもくだらなく、実際にはなんの芸も持たない、芸人とはとても呼べないようなつまらない輩である。  だが、もう一人のツイタはさらにひどい。こいつも〝英雄的行為〟と称する行いをして人気を得ようとする類の人間であるが、例えば世界的に人気な遊園地〝デスリーランド〟において、転落防用のバーを外してジェットコースターに乗るような禁止行為をしてみたり、バイト先のパスタ屋でお客に出す生パスタを店に隠れて玩具にしたりと、その活動は英雄どころかただの迷惑行為である。 「鬼騎士に立ち向かう勇敢なとこ見せれば、確実に俺の人気もうなぎ上りだな」 「この英雄的行為で、俺はこの王国の伝説になってやるぜ!」  そんな二人は自らの人気向上に利用するため、姫のSNSでの呼びかけに応じたのである。けっきょく、彼らもコリトル姫のために命を張ろうというわけではないのだ。 「よいか! なんとしてもこの港で食い止めるのだ! けして鬼騎士を王都へは入れるな!」  他方、そうした頼りにならない〝勇者〟達に頼ることなく、近衛師団長のフェルビは粛々と自分の仕事に務めていた。  さすがは「戦場に咲く一輪の薔薇の花」と称された麗しの武人。颯爽と美しいブロンドの髪をなびかせ、彼女は港に配備した近衛師団の兵達に檄を飛ばしている。  今や女性らしい丸みを帯びた彼女の撫で肩に、この国の命運がかかっているといっても過言ではないであろう。  そして、ロキソ王の楽天的な予想に反して迎え撃つ準備もままならない内に、新たなる恐怖の到来するその日をこの王国は迎えたのだった……。
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