第1章 突然の指名

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 凪先輩が教室から姿を消したとたんに、間近で笑みを向けられた女子たちが、一斉に蜂の巣をつついたような騒ぎになった。  その喧騒のなかで、晴香は羨望と同情が入り混じった目をわたしに向けた。 「そうよね。言われてみれば、生徒会長にくっついていられても、週末に試験があるんじゃあ楽しんでいられないし大変よね。桂ちゃん、がんばってね。私、応援するから!」  晴香は両手でそっとわたしの手をとると、しっかと握りしめた。 「授業中に呼び出さざるを得ないくらいに桂ちゃんがおバカでも、私はずっと友だちだよ?」  ――ああ、先輩だろうと戦隊メンバーであろうと、こんな情報を流した凪先輩、絶対に許さない!  わたしが心に誓ったとき、晴香は急に思いだしたように、わたしの手を握りしめたまま話を変えた。 「そうそう、それと、聞いた? 桂ちゃん」 「な、なにを?」  晴香の、なにか楽しいことを見つけたような、きらきらした瞳を近くで感じて、わたしはぎくりとする。  そんなわたしの様子に気づかない晴香は、嬉しそうに口にした。 「中庭に建っている銅像のこと。なんでも、銅像の顔がいつも中庭の中心を見ているはずなのに、気がついたら今日は右へ向いちゃっているらしいのよ! しかも中庭の真ん中に、足跡のような深いくぼみがふたつも突然出現したんだって! これって学校七不思議にならない?」 「へ、へぇ~。そうなんだ。それは不思議な出来事だよね……」  勢いこんで話し続ける晴香に、わたしは冷や汗を流しながら相槌をうった。  しまった。そこまで気が回らなかったよ。  それにたぶん、完璧主義者をきどる生徒会長も、さすがにわたしの怪力を目撃したせいで、気が動転していたに違いない。  わたしが銅像を受けとめたときについた足跡、うっかり消し忘れてた!
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