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いくら年下で性格の裏表がばれていて気を使わなくてもいい相手だからって、おもちゃにしなくてもいいじゃない。
恨みがましそうなわたしの視線に気づいた凪先輩は、すぐに笑いをひっこめると、ささやくように続けた。
「まあ、実技試験前の軽いジャブだ。気にするな」
「気にします! って? 実技試験前のって、それ、どういうことですか?」
「これ以上は教えられない。試験前にテスト範囲を知らせてやるレベルの情報だってことだ。さあ、暇そうなきみはお茶を淹れてくれ。窓際にある開き戸の中に、ドリップタイプの珈琲がある。ぼくは砂糖もミルクもなしでストレートだ」
「わたしがお茶を淹れるんですかぁ?」
なんで命令されなきゃならないの。
わたしには、どこに何があるのかわからない初めての場所だし、いろいろ好みがあるんだったら、自分で淹れたらいいじゃない。
頬をふくらませたわたしへ、睨むような目つきになった凪先輩は威圧的に言い放った。
「なんで、だと? きみの試験のために、他の生徒会役員が全員帰宅させられているんだ。今週は、ぼくがひとりで生徒会の仕事をすべてこなさねばならない。そのうえ、きみの試験に立ち会うという仕事もある。きみのためにぼくは手いっぱいとなっているんだ。当たり前のことを言うな!」
一気にまくしたてられ、完全に気迫で言い負かされたわたしは慌てて立ちあがると、あたふたと珈琲を淹れる用意をはじめる。
手際悪く動きはじめたわたしを確認すると、凪先輩は書類に目を落として続けた。
「きみの分も含めて用意しろよ」
――まるっきり悪い人ってわけでもない。
言い方がなっていないだけだ。
自分にそう言い聞かせたわたしは、仕事に戻った凪先輩を横目でうかがいながら考える。
もうひとつ聞きたいことがあったけれど、ちょっと話しかけにくい雰囲気となったために、言葉を飲みこんだ。
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