第2章 新たな能力者

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「重力?」  ピンとこなかったわたしは首をかしげる。 「重力操作系は、物体を重くしたり軽くしたりすることができる。自覚のないころから無意識に、自分自身を重くしたり軽くしていたのではないか?」 「ベッドに沈みこむ重さは時々あったそうですが、その話だと、身体が浮くくらいの軽いときがあるってことになりますよね。わたし、空は飛べないです」 「空を飛べるほど身体が軽くなるわけでもないだろうが、他人が重いと感じて持ち上げられないものが、きみには軽いと感じられているのではないかな。他人と個人とのあいだの比べられない感覚問題もあるだろうが。ああ、そうすると。――地上の重力よりも重い負荷を自らの肉体にかけることによって、物を支える腕や肩だけではなく背中や脚なども、つまりは、身体の組織全体に筋力がついた可能性もある」  そして、わたし以上に興味を持った表情の凪先輩は、さらにささやくように続けた。 「重力系となると……。自分に対してだけではなく、ほかの物体に対して作用させることができれば、かなりレアで使える能力だ。物を持ちあげるという念力のようなことができるだけじゃない。空気中の粒子も重力がある。光を曲げることができれば、錯覚などの変化技もできるかもしれない」  けれど、凪先輩はそこで言葉を切ると、じっとわたしのほうを見つめてきた。  その真剣な表情と瞳の奥を見透かすような眼に、思いがけず、わたしの乙女の心臓がどきんと脈打つ。  いままでこんなに近くから男子に、まじまじと見つめられるなんてことがなかったわたしは、どうして良いのかわからず動けない。  すると。  わたしの顔から手元の書類へと視線を移しながら、凪先輩は、わざとらしいくらいの大きなため息をついてみせた。 「いや。過度な期待はやめておこう。きみに使いこなせる気がまったくしない」 「それって、とっても腹が立つんですけれどぉ!」  わたしが凪先輩へふくれっ面をみせたとき、どこからかクラシック音楽が流れてきた。
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