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目の前の彼に、何をしに来たの? と問われたわたし。
その、やわらかく透き通るような声に、わたしはハッと自分のやるべきことを思いだした。
「えっと……。わたしがここに来たのは……体育館の見回りです」
「そうなんだぁ」
ぎこちないわたしの返事を聞いた彼は、薄っすらと笑顔を浮かべて、遠くからわたしの瞳をのぞきこむ。
そして、おもむろに彼は自分の顔を指さした。
「きみは見回りに来たんだね。それじゃあ、ここは高校だ。そこに高校生らしくない部外者が入りこんでいるとなると、普通はどうしなきゃいけないんだろう?」
やんわりと尋ねられて、わたしはようやく思い当たった言葉を口にした。
「部外者を発見した場合は、――校外に出てもらえるように説得でしょうか……。それとも先生に連絡? 警察へ通報? えっと、もしかしたら……わたしがあなたを捕まえなきゃいけないんでしょうか?」
つい、その部外者となる彼に教えを乞うような口調になって、わたしは自分で自分が情けなくなる。
すると、彼はその言葉を待っていたかのように、満面の笑みで告げた。
「そうだね。見回りに来たきみは、たぶんおそらく、ぼくを捕まえなきゃならないようだ」
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