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わたしは階段を駆けあがる。
体育館を使用する運動部に所属していないわたしは、練習試合なども観に来ることがなかったために、初めてあがる二階だった。
階段正面には、手すりの前に置かれたベンチ型の観覧席が適度な間隔をあけて設置されている。
その後ろに、雨の日に走ることができるようにであろうか、幅広く一周がつながった廊下が造られていた。
ぐるりと見渡すと、もう体育館の向かい側へと移動していた彼が、わたしを呼ぶように手を振る。
まるで、鬼ごっこを楽しもうとしているかのようだ。
「ちょっと待ってくださいって!」
追いかけるしか術すべのないわたしは、仕方なく走って追いかける。
当然彼も逃げる。
彼のほうは緩やかに走っている感じなのに、脚の長さのせいなのか追いつけず、結局二周まわったところで、彼が一階へと階段を駆けおりた。
そのまま外へ出てくれたら良いものを、今度は一階の体育館の中へと戻っていく姿が観覧席から見える。
「え~! マジですかぁ……」
充分体力を削られたわたしは、仕方なく追いかけるように階段を駆けおりると、体育館の中へ走りこんだ。
すると、今度はど真ん中で立ち止まっていた彼が、無防備に両手を広げて立っていた。
「息があがっているみたいだね。もっと体力をつけなきゃ」
そう言って笑顔を見せる。
ああ、馬鹿にしてる!
そして、本気でわたしと鬼ごっこをしているんだ、この人!
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