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一応透流さんに対しては丁寧な言葉を使っているのに、やっぱり凪先輩って失礼な人だなぁと思ったわたしは、口もとをゆるめている凪先輩を睨みつける。
そんなわたしへ向かって、透流さんが話しかけてきた。
「ぼくの能力はわかったかな。『通り抜け』なんだ。生き物でも壁でも、その気になれば通り抜けられる。よく超能力のテレポートと間違えられるけれど、瞬間移動ではないんだ」
「へ~! すごいです!」
すぐに感嘆の声をあげてから、わたしはふと心の中で疑問を持つ。
そりゃあ、物でも人でも通り抜けられるってすごいことだ。
でも、瞬間に建物内へ入りこんだりする能力ではないとすると、戦隊メンバーとして、どんな役に立つのだろう?
すぐには思いつかない。
けれど、先ほど凪先輩に頼りないという性格を否定もされず、本当にすごい能力である『通り抜け』も、実際にはどう実用的にすごいのかわからない能力を持つ透流さんに、初対面のわたしが確かめられるわけがない。
そのうち、わかってくるのだろうか。
「ぼくが二年前に、凪の実技試験を立ち会ったんだよ」
わたしの心の内に気づかない透流さんは、話を続けた。
「当時は、この高校にメンバーはいなかったから、現役立会人として近くの大学に通っていたぼくが呼ばれたんだ。凪とは、そのときからの縁になる。ぼくの助けが必要ないくらいに、凪は良い成績で実技試験を合格したよ」
「なにも彼女に、昔話を聞かせることもないじゃないですか」
「ああ、凪は照れてるの?」
「違います!」
ふたりのやり取りを黙って聞きながら、わたしは実技試験のことを思いだして気が滅入る。
凪先輩は生徒会長に選ばれるくらい、運動神経も頭も良く、なんでもできるのだろう。
それに比べて、きっとわたしは、期待はずれで幻滅させるに違いない。
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