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凪先輩も、ふっと真剣な表情になる。
けれど、そのふたりの様子を見て少し不安を覚えたわたしに気づいた凪先輩は、すぐに声をかけてきた。
「いや、まだ正式なメンバーではないきみが心配することじゃない。滞りなく試験が行われるようにするのは、立会人であるぼくであり、試験を実施する学校側だ」
「いや、自覚を持ってもらったほうがいいと思うよ」
凪先輩の言葉をさえぎるように、珍しく語尾を強めた透流さんがわたしへ言った。
「この世界の平和は、表立って見えない誰かの働きで保たれているんだよ。その仕事のひとつを、ぼくたちがしているんだ。ただ、仕事に対しても、それを行うぼくたち個人に対しても、それを好ましく思わない誰かがいることも本当だ。そしてまた、それは平和を乱そうとする者であったり、――味方であったりするときもある」
透流さんは、本当にわたしを見にきただけのようだった。
校門の前まで見送りに出たわたしと凪先輩へ、やわらかな笑顔を見せて手を振ると、そのまま駅のほうへ向かって歩きだした。
その後ろ姿を見つめていたわたしは、なぜだか急に叫んでいた。
「頼りないなんてこと、ないです!」
驚いた表情を浮かべて、透流さんが振り返る。
隣で、こらこらと声をかけてくる凪先輩に構わず、わたしは透流さんへ向かって続けて言った。
「透流さんはリーダーっぽいです! だって、皆のことをよく見てくれているし、わたしのことも気にかけてくれています。うまく言えないけれど、リーダーって本当に、そういうものなんでしょう?」
わたしの言いたいことは伝わったのだろうか。
透流さんは、本当に嬉しそうな表情をわたしに見せてから、夕暮れの中を歩いていった。
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