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「おめでたい頭の女だ。表面だけなら何とでも言えるよな。ひとり可愛い子ぶってんじゃないよ。どうやって凪先輩にとりいったんだ? 俺はそんな手に引っかからないから、これ以上、俺に係わってくるな」
留城也先輩は、小声で一気にそれだけ言うと、さっさと背を向けて廊下を歩きだした。
わたしは呆気にとられて、その後ろ姿を見送る。
すると、前方から歩いてきた数名の女子が留城也先輩とすれ違った。
通り過ぎたとたんに、ひそひそとささやきだす。
「いま電波くんが通ったよ」
「やだぁ、時計狂ってない?」
「まったく、いるだけで迷惑よねぇ」
――ああ。
会ったばかりのわたしが口でなにを言っても、きっとすぐには留城也先輩も信用してもらえない。
面白おかしく笑いながら通り過ぎた二年の女子を目で追いながら、わたしは、自分が軽率な行動をとろうとしていたことに気づいた。
これから、どんな実技試験があるのかわからないけれど。
なぜなのか、どうにかして留城也先輩には、わたしが真面目に取り組む姿を見せていきたいと思った。
留城也先輩とは、まずは話ができるまでの人間関係を築くこと。
きっとそれが第一歩だ。
そのためには、生半可な気持ちで試験に挑んじゃいけない。
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