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決意を胸に、その場でぼんやりと立ちつくしていたら。
後ろから肩へ、思いきり人がぶつかった。
よろめいたところを、するりと腰に腕が回されて支えられる。
「ごめんごめん。大丈夫だった?」
爽やかで心地良い声が、耳のそばで響いた。
慌てて顔をあげると、とても近いところに、声から想像通りの見目良い男子が顔をのぞきこんでいる。
声にならない悲鳴をあげたわたしをつかまえたまま、楽しそうな笑顔を向けてきた。
「きみ、グリーンの校章の一年生なんだ? なに、二年になにか用? 見るからに初々しいねぇ。なんて名前?」
そう言った彼の腕から、わたしはどうにか抜けだした。
お礼の言葉を言うべきところかもしれない。
倒れそうになるところを助けてもらったのかもしれないけれど、よく考えたら、先にぶつかってきたのは彼のほうだ。
警戒心いっぱいの目を向けたわたしへ、彼は面白そうな表情を浮かべてささやいてきた。
「いま、電波くんとなにか話をしていなかった? あ、きみは一年生で知らないかもしれないけれど、彼は変わり者だから近づかないほうがいいよ。彼氏募集なら、オレとデートしない? きみ可愛いもんね」
そこまで言ったあと、まるでキメ顔のように、わたしへ笑顔を向けた。
その微笑みに、わたしはうっかり見惚れるように目を見開いてしまう。
心を見透かすような意思を持った強い瞳はチョコレート色で、自信に満ちた口もとはゆるやかに弧を描く。
いかにも女の子にモテそうな恰好良い顔立ちをしているため、たぶん、わたしから断りの言葉が出るなんて、思いもよらないって表情なのだろう。
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