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たしかに一瞬、恰好良さに目を奪われた。
でも、恰好良ければ誰でもいいってわけじゃない。
ましてや出会ったばかりで、どんな性格なのかがわからない。
ただ、間違いなく、女の子に対しては軽そうだ。
わたしは、頬が紅潮するのを押さえられないまま、それでもはっきりと口にした。
「いまはまだ彼氏の募集をしていませんので、けっこうです!」
思いもよらない言葉を聞いたと言わんばかりに、彼は驚いた表情を浮かべる。
けれど、すぐに笑顔になった。
「いいねぇ、その強気な態度。落としがいがあるって気にさせるなぁ」
へこむ顔をするかと思ったら、意外と神経が図太そうだ。
もう少し強気で断りの言葉を言おうと、わたしが口を開きかけたとき。
素早く耳もとへ顔を寄せ、ゆっくりと焦らすようにささやいた。
「――電波くんのこと、知りたい? きみ、なんだか思いつめた顔をしていたじゃないか。彼の個人情報を流してあげるよ。いまはもう時間がないから、放課後に図書室へおいでよ」
「え? 放課後って……」
実技試験が入っている放課後は、学校側から全校生徒へすみやかな帰宅命令が出ている。
聞き返したわたしの言葉に、彼は、そのことを思いだしたように、あっというような表情を見せた。
けれど、すぐに口もとへ微笑みを浮かべる。
「より好都合じゃない? 他人に話を聞かれなくてさ。それじゃあ待っているから」
「わたしは行くなんて言ってません!」
すぐに、そう返事をしたけれど。
彼は、自信たっぷりの表情ではっきりと言い切った。
「きみは来るよ。だって、彼のことを知りたいんだろう?」
――なぜ、そう言い切れるんだろう。
絶対に行く気はないために、わたしは、振り返って手を振る彼へ向かって舌をだしてやった。
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