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放課後の図書室は、鍵はかかっていなかった。
けれど、電気は消えていて、いつも図書室にいる係の先生の姿もなかった。
当然、生徒の姿はひとりも見当たらない。
わたしは図書室へ入ると、静かに扉を閉めた。
実技試験で残っている私は、別に見つかってもいいんだけれど。
あの彼は、本当は学校を出なければならないはず。
わたしに情報をくれるから彼も校内へ残ったのに、先生に見つかって叱られたら申しわけない。
彼の強引な約束のやり方を思いだしたりもしたけれど、根っから他人を悪く思えないわたしは、スルーすることにした。
凪先輩の強引な性格に比べたら、可愛いものだ。
わたしを呼びだした彼は、入り口からは見えない位置にいるのか、あるいは、まだ来ていないのだろうか。
読書家というわけではないわたしは、まだ数えるほどしか図書室へ来たことがなかった。
そのために、物珍しく棚に並んだ本の背表紙を見ながら、奥へと入りこんでいく。
本棚にはさまれた狭い通路を歩いていくうちに、入り口から死角になってしまった。
これじゃあ、彼があとからやってきたときに、わたしがいることに気づかない。
そう考えたわたしは、入り口が見える位置へ戻ろうと振り返った瞬間、その声が図書室のなかで響いた。
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