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そうだよね。
最初からわたしは、試験を受けること自体を嫌がっていた。
わたしがやらなくても、もっと才能のある他人が、わたし以上に役立つ仕事をするはずだ。
なにもわたしが嫌々試験を受ける必要なんて、ないじゃない。
試験に受かっちゃったら、そのあとはまともな高校生活を送れないのは間違いない。
うっかり言葉に乗せられて、そう思ったとき。
「勝手に他人のプライベート情報を利用して、女を呼びだしてんじゃねぇよ」
静寂を破るように扉が開けられた。
バンッと大きい音が鳴り響く。
この声は、留城也先輩だ。
すると、金縛りが解けたかのように、わたしの身体に感覚が戻った。
無意識に握りしめていた両手のひらを、そっと開く。
身体が動いた。
自分を奮い立たせたわたしは、片足をあげる。
思い通りに足が動いた。
その機会を逃さぬように入り口が見えるところまで、わたしは本棚を伝いながら移動をはじめる。
ようやく視界に映ったのは、仏頂面で図書室の中へ入ってくる留城也先輩と、その後ろで呆れたような表情の凪先輩が立っていた。
凪先輩が姿を見せたってことは、これは実技試験だったの?
そう思った拍子に、わたしは腰が抜けたように、その場へすとんと座りこんでしまった。
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