86人が本棚に入れています
本棚に追加
「まったく馬鹿らしい」
急に留城也先輩が、不機嫌そうな声をあげた。
「凪先輩が血相を変えて生徒会室を飛びだしたところに遭遇したから、なにか起こったのかと一緒にきたが、とんだ茶番じゃねぇか。ついてきて損した。帰る」
続けて言うと、さっさと図書室の入り口へと歩きだす。
わたしは、ハッと気がついた。
凪先輩も留城也先輩も、ふたりはわたしのことを心配して駆けつけてくれたんだ。
「あ、あの、留城也先輩、ありがとうございます!」
慌ててわたしは、図書室から出ていく留城也先輩の背中へ声をかける。
一瞬、驚いたように横目でわたしを流し見た留城也先輩は、けれど立ち止まらず、そのまま姿を消した。
「凪先輩もありがとうございます。心配をかけてすみません」
すぐにわたしは、凪先輩のほうに振り向いて、頭をさげる。
「わかればいい。次からは気をつけろ。――きみが放課後、生徒会室へこない気がしたとき、透流さんから預かっていた受信機できみの位置を特定したんだ。これから、こんな手間をかけさせるな」
しおらしくうつむいて、凪先輩の言葉を聞き流しながら、わたしは、ほわりとした透流さんの笑顔を思いだす。
さすが透流さん、こういうことも見越していたのだろうか。
おとなしく反省するわたしの横で、紘一先輩が悪びれもせずに口を尖らせた。
「なんだよ。それってまるで、オレが悪いことをしたみたいじゃないか」
「悪いことだとは思っていないのか? 紘一がしたことは、実際ぼくたちによけいな手間をかけさせている」
「オレは協力してあげようと思ったんだ」
紘一先輩の言葉に、わたしは驚いて顔をあげ、彼を見た。
協力って、どういうことだろう。
眉をひそめる凪先輩とわたしの視線を、紘一先輩は臆することもなく受けとめ、悠然と微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!