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先輩は、どう口にするべきか、迷っているというような表情だ。
なにかしら話してくれる気配がするため、わたしは歩きながら、凪先輩のほうから口を開くのを待った。
「――紘一は、サラブレッドなんだよ」
ようやく口にした凪先輩の言葉は、それがどういうことをあらわすのか、わたしには、すぐにはわからなかった。
首をかしげたわたしへ、凪先輩は続けた。
「心が読める能力を一族の長男が先祖代々継いでいて、彼はその直系にあたる。苗字の『左部』は、人の心が読めるという『覚』という伝説の妖怪からきているそうだ。ぼくも苦労したクチだが、皆の期待を背負うということに対して彼はその比ではない」
そこまで口にした凪先輩は、わたしのほうを向いて、なんとも言えない困ったような表情を見せた。
「きみは素直な性格だ。それ自体は良いことなのだが、あまり他人を信用するな。そういう意味では、好き嫌いがはっきりしていて態度にもでている留城也のほうが、わかりやすく扱いやすいだろうな」
「――それって、結局わたしは、どうすればいいんですか?」
わたしは聞き返す。
凪先輩はようやく、いつもの真面目な表情になって、わたしに言った。
「ここで聞いたことは忘れろ。気にするな。きみの単独行動をとめるために話したが、中途半端に思いだすと、紘一に考えを読まれることになる」
だったら、こんな話で釘を刺さないで欲しい。
遠回しな理由を言わずに、勝手な行動をとるなって言い方だけにしてくれなきゃ!
そうじゃないと、絶対わたしは紘一先輩の前で、この会話を頭の中に思い浮かべちゃう気がするじゃない?
「まったく。このチームは癖のあるメンバーばかり集まる」
そうつぶやきながらこちらを流し見た凪先輩へ向かって、わたしは思いっきり心の中で叫んだ。
それは凪先輩も一緒です!
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