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「あら? 不服そうな顔をしているわね」
この問題は高校一年の数学じゃないと文句を言おうとして顔をあげたとたんに、わたしの視線を待ちかまえていたような宮城先生の眼とぶつかった。
待ってましたとばかりに、瞳の奥に鈍く輝く炎がゆらりと蠢く。
その毒を含んだ眼とは対照的に笑顔を浮かべ、ゆっくりと言い聞かせるように、やわらかい声音で言葉を続けた。
「あら、いやだわ。まさか木下さん、習っていませんとか知りませんでしたで済むと思っているの? 今回の試験は、ただの学力テストではないとわかっているわよね」
にこやかに口にされ、わたしは返す言葉がない。
これは通常の試験じゃないとわかっているから。
ならば、問題を解くカギがあるのかと、わたしはプリントへ視線を落とす。
「はい、いまで五分経過」
大げさに腕時計を確認しながら、宮城先生はわたしの耳もとでささやいた。
そのとき、教室の後ろのドアが開く音がした。
思わず振り返ると、笑顔の紘一先輩がするりと入りこみ、凪先輩の横の席につく姿。
「ちょっと。邪魔しないでいただけるかしら」
鋭く声を飛ばした先生に対して、紘一先輩は真面目な表情になって即座に謝罪の言葉を口にした。
「すみません。メンバーとして見学希望です」
そして、凪先輩へ顔を向けると、わたしや先生にも聞こえる声で続けた。
「先生方にも全員、桂ちゃんのこの時間の試験は伝わっているみたいだね。腹痛で保健室へ行きたいって言ったら、あっさり許可されたよ」
その声を聞いたわたしは、ますます蒼ざめた。
背中に冷たい汗が流れる。
学校中の先生が皆、わたしがこの試験を受けていることを知っているんだ。
全然解ける気配のない問題を前に、ここで固まっていることを知っているってことなんだ。
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