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どのくらい経ったのか、もうわたしの感覚が麻痺してわからなくなったとき、急に宮城先生は、いままでにきいたことのないような優しい声をだした。
「あなたが嫌いで、こうやっていじめているんじゃないの。メンバーに選ばれることがどういうことかって、教えてあげているのよ」
その声に、まったく動けなかったわたしは、ぎこちなく顔をあげて先生を見上げた。
「木下さん。もし、あなたがメンバー試験を辞退するなら、いますぐ解放してあげるわよ」
急に腰を落とし、わたしの視線の高さまで自ら目を合わせてくると、先生はわたしの耳もとでささやく。
「恥ずかしくない点数だったけれど一歩及ばずって内容で、上には報告してあげるわ」
無意識に、わたしは先生の目を見つめていた。
宮城先生のその瞳には、先ほどまでの馬鹿にしきった光が消えている。
「辞退の仕方は簡単よ。プリントに書いたあなたの名前の下に、辞退しますってひとことを書くだけ。急に漢字が思いだせないのなら、ひらがなでもいいわ。ほら、簡単でしょう?」
心の底から、わたしのためを思って言っているような口調で続ける。
「楽になるわよ。辞退しますって書いちゃいなさい。本当はメンバーになりたくないって聞いているわよ。ここでリタイアしても誰も怒らない。逆に引き延ばされるほうが、周りに迷惑をかけるわ。それに、もしメンバーになったら、何度でもこんな目に遭うわよ? あなたも、わざわざ辛い目に遭うこともないでしょう?」
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