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そうだ。
もともとメンバーになりたいわけじゃない。
わたしがここで辞退すれば、すぐに代わりの候補生の試験が、別のところではじまるだけだ。
だらだらと引き延ばしているほうが、皆に迷惑をかけているんだ。
わたしは、目の前の答案用紙へ視線を戻し、名前の下の余白を見つめた。
――でも。
本当にそれでいいのだろうか。
立会人だからかもしれないけれど、わたしの試験に対して、いまの凪先輩は親身になってくれている。
力を見直す分岐点だとも言っていた。
本当に、全力で向かわずに楽なほうへ逃げていいのだろうか?
「ほら、書いちゃいなさい。あなたのため、皆のためよ」
ささやき続ける先生の瞳へ、わたしは真っ向から視線を合わせた。
眉根を寄せた先生に、喉がからからでかすれてしまったけれど、わたしはきっぱりと口にした。
「迷惑かけてすみません。最後まで試験を受けさせていただけますか」
一瞬、宮城先生は呆気にとられたような表情を見せた。
けれど、すぐになだめるような口調になる。
「悪いようにはしないわ。いつまでも粘ってもあなたには解けないもの。諦めて辞退しましようね」
「お願いします。最後まで受けさせてください」
もう一度、わたしがそう告げたとき。
突然、宮城先生は姿勢を正して立ちあがった。
教壇のほうへとつかつかと移動し、驚くわたしへ向かって振り向いた。
そして、教卓に両手をついて、わたしを見下ろす。
いままでからは考えられないさっぱりとした口調で、わたしに言った。
「ふぅん。試験に対して消極的だと聞いていたわりには頑張るじゃない。負けん気があって、時間が経つほどに粘り強さが出そうなタイプ」
そこまで口にした先生は、妖艶に微笑んだ。
「まあ、ぎりぎり合格点ってところかしら。以上で、私からの試験終了を宣言します」
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