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第1章 突然の指名
「木下桂、ちょっと来い」
名前を呼ぶ先生の声を、まさかと思っているわたしは聞き逃して返事をしなかった。
慌てたような晴香が隣から、わたしの肘を突っつく。
「桂ちゃん、先生が呼んでるよ」
「――え? あ、はい」
自分が呼ばれたことに気がつき、わたしは急いで立ちあがった。
授業を中断してまで呼びにくるなんて。
家で、あるいはお父さんとお母さんの身に、なにかあったのだろうか?
良くないことだけが頭の中に浮かび、わたしは、クラスの皆に注目される中でクラリとめまいがした。
頭に血をのぼらせながら、なのに、手の指先だけは異様に冷えていく。
それでも、どうにか歩きだしたわたしは、先生のもとへ近づいた。
「木下、荷物はそのままでいい。いまから校長室へ行きなさい」
教室の入り口まで近づいたわたしへ、眉間にしわを寄せた先生が言った。
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